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単一な黒、内面はカラフル 2

「あいまいな機能の働きと記憶を取っ掛かりに、当事者はアイラ・クズミに介在するべく、この作用を逆手に取った。アイラはその性質上、瑣末な事情に靡かない、クールな人格を持つ。通常みられる代わり栄えのしない接触では当事者の存在は忘れ去る、ゆえにライブ会場で発動、これに踏み切った。平静と発狂が共存、互いに譲らず音を発し続けた。高まる音は共鳴し、一つの音質へ移行、歪でありつつも清らかな居心地のよさを宿す、けったいな内部干渉が自身を支配。支配されたとは言わない、むしろあるべき姿になった、という表現が妥当だ。そうして、記憶の落しどころを見つけ、産みつけた。会場内の擬似血液の噴出がそれに当たる。もしかしたら本当にアイラを殺す用意があったのかもしれない。今となっては闇の中。しかし、少なくとも私には記憶を植え付けた、短時間であれ、あなた方にこうして私が関わることを予測していたのですから、見事といえば、拍手を送る気にはなれませんが、身を削った処置、という評価は与えられる。やがて観客たちにも芽吹く種を、植え付けました。そちらが本質かもわからない。個別に許された限りある一生、その生の拘束時間を他人に受け継いでもらったとすると、自らを神格化、私に成り代われないというせき止められた将来をひがんで二番目のお願いに、その信じる神様に手を合わせ、あるいは指の腹をクロスさせるか、ひざまずき、祈りを捧げたのでしょうね。空に向ったことだろうとも思います、手の届かない場所に居たほうが、何かと好都合、地面だと現実と重力とに支配される同種という錯覚に陥りやすいですから。