コンテナガレージ

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エピローグ

三名の刑事と対し説明はこれで六度目となる、昨日の相手白髪交じりの男性は脇に控え立会う。この人に話してくれ、くたびれた首に巻きつける帯を緩め、つきっ切りそのの刑事がだるそうに黒く汚れた爪の先で指した。斜に構えた伊達男と席を替わる。室内は二人っきりとなった。見られております、ひしひし視線は感じられる。壁とそれから天井の隅に血走った眼球がぎろりぎろり嘗め回す。

 住処に着くと喉を整え私は呼びかけたのでした。
「申し申し、お客さん、お客さん。時間が過ぎております、速やかに可及的にご退室を願います。申し、申し」
 無言が返るばかりで物音ひとつ聞こえない。次の予約客がそろそろ案内されて、もうここへやって来る、引き戸を二度叩く。それでもやはり反応は示されません。左腕にマスターキーを呼び出す。電子錠、この腕輪一本で部屋すべての開錠を行える優れもの。囲いを作りそれでも野山は観賞、しかも沐浴と鳥の囀り、川面を想像させる夜空のせせらぎを欲する、なんとも、ええ、なんともなのです。
 利用終了時刻を再度確認、腕輪を通じ使用時間の超過、開錠の許可が得られました。通信機器装置を内包して手に収まる極小のサイズを実現する、文明の発展はどうにも小型化が共通する事項であるらしい。
「入ります、失礼します、勝手ながら室内に上がります」毅然を意識し呼びかけ、ドアを開けた。直視を極力避ける、伏目がちに板張りの床に入室の挨拶を投げ交わした。軋みが片足ごとに跳ね返った。プライベートな空間に秘めた至情、情事、情交などをお客様は抱えます。『お忍び』という不義理な関係を近しい人々の目の届かない所でなら良いのだろう、見えていないのはことに励んでいないのと、もしくは会ってすらいないのと同義に値する、これら地獄の穴に落ちてしまう諸行を幾度と散見しておりました。世間とかけ離れた私たちの性質が雇用を決定付けた要因のでしょう、いわゆる芸能に携わる人たちの来訪を私は幾度ときまって後に知らされることとなっておりました、知らないのです、有名、著名なそれらの方々を。食料の買出しに出かけた際の食料品店で秘密裏というよりも半ば盛大に耳へ届けるかのごとく喋り散らすご婦人たちの井戸端会議の題目は、芸能人を空港で見かけたといい、しかも二人もである。別れ別れにゲートを出てきたけれどあれはどう見ても示し合わせた世を忍ぶバカンスでしょうに。事細かな描写は出迎え送ったお客様の二人の服装と符号しました、私は気を引き締め戒めたのであります。
「どうされました!」呼びかける、咄嗟に取れた精一杯の行為。明らかに横たわるそれは中と外の架け橋、四角くかたどられた煙突のような筒を穴があくまで飽きることもなくただただ熱心に寝食をも忘れひたすらに対象の動き・生態をこの目に焼き付けんとばかりめらめら轟々とそれはそれは近寄りがたい殺気を放ちつつ、しかし体躯は弛緩し、いやこのときは硬直がにじり寄っていたのかもしれません。
 顔が半分沈む。首が半分落ち窪む。胸と肩がぼろぼろはがれんばかりに腕と腹は仲良くぺちゃんこ。腰といえば甚だ逞しく張り出しそれでも膝のへこみが強調を促すのだと知って、あらぬ方角へつま先向いて赤く熱した鉄のごとく金鎚で以ってのばされております。
 躊躇う。迷いを振り切る、思い切った私。「……そこに居られるのですね?」本来声がけは外の住人の役割だ。中の私は食べられます、不相応、これは決まりなのです。まずは余所に此処よりも外に伝えなくてはなりません。教訓を、集まる眼に刻み付けられなくては。
「応急措置は!息は?生存は!君の役目だ、容態を君が確かめないでどうする!」石と石の狭い間から叱責を受けた。私は……叱られてるらしい。いち早く救い出すより、私はここでそれらの救出劇、生存確認を傍観する役割に徹しなくてはならないのです。何度もそれは伝えているのに、頭に血が昇ってすっかり目先の事態打開に先を先へ急ぐあまり盲目に目を奪われた、あなたがた外の方々が。
 私は言ってやりました。