コンテナガレージ

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熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

 エレベーターの着地音が通路の奥深くがパンが焼けた完成の音量に絞って届く、美弥都は耳がいい。
 上階、地上階から呼び寄せる係員が降り支配人の山城をフロント業務を交代した、女性である。会釈と挨拶を義務的に交わす。影を纏った小柄な人物、水平に切りそろう前髪と墨のような髪の黒は制服の赤いジャケットと対比をなす。何かにおびえる上目遣いの垂れる前髪から見据える視線は接客業にとってはマイナスに働く、美弥都にもその経験と指摘の過去を持つから共感を覚えざるを得ない。あえても、見かねてさえも、指摘などはもってのほか。世を正す正義を振りかざす輩は自らの衝動を抑えきれないのだ、秘めた能力のままではいられないらしい。
 左右対称にフロントの両脇から奥へコンクリート造の通路、巨大な下水管とでもいおうか、二股に分かれずに途中で合流し先が続いた。エレベーターは突き当たりではなくひょっこり、通路の半端な位置にこれまた左右にそれぞれに一基ずつ備える。多少なりとも待機時間のわずらわしさを感じさせないため、……維持費と効用を天秤にかけたのだろうか、美弥都は地上階に上がる箱の中で考えをめぐらせた。
 駐車場入り口で目視したなぎ払った森林、ぱっくり視界を割いていた。
 燦燦と強まった日差しが強弱をつける、空には雲がかかっているらしい。店長がつけていたラジオでは昨年を上回る真夏日が今年は予測されるとのことであった。不要な情報に思うのだ、しかし人はせっせと暑さに関するあれこれを無意識に取り入れる。せめて去年が限度だろう、私は昨日か一昨日が許容の範囲と線を引く。ノスタルジィとは縁を切った。記憶を思い出さない対処法ではないのか、体内の数人がひそひそ呟く。得られないことを知っておいて神仏にすがって叶えたいとは、申し訳ないが私は思えないのだ。元旦に初詣に出かけることも、お宮参り、七五三を意識せずに慣習として平然とそのときが訪れやってきたからと追い立てられ、お払いもそうだ、当人のここ持ち次第であるように、しかし強制は一度も、押し付けなどはもってのほかだ。
 建物中央に足を向ける、この階は木材一色である。柔肌の木目が木の香りを放ち、匂い立つほど。階段を下りるよう指示された。ここはどうやら二階であったらしい、確かエレベーター表示はアラビア数字の1と2それと乗り込んだB1の三つであった、見間違えとは思えない、美弥都は幾つかの可能性を当てはめて二人の男性に続いた、階段は通路の中央に二階回廊の手間から下る。
 よく見るとどことなく後ろ姿、歩き方、視線の送り、動作もだ、似通っている。探偵事務所なる怪しげな仕事で染み付いてしまったのかも。
 温度と湿度、照度もか、変った。地下駐車場と地上の中庸。コンクリートらしき上下左右の素材は石であるらしい、屈んで触れた、裾を気にするスカートの類は彼女ワードローブにライナップを許されるものか、よって動きに制限、囚われることはない。