コンテナガレージ

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熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 5

 時計は午後の八時を示す頃、食事の誘いを受けたが、あっさり断った。店長は荷物にこっそりハムサンドを忍ばせていたのである、どうせどこにも出歩かない私を見越したらしい。帰り際に鞄の重量や材質について尋ねた理由が今さっきハンカチを取り出すついでに開けたカバンから、勤務先の黒いエプロンの上に乗る手作りの食料が覗いて腑に落ちた、というわけ。美弥都はほぼ一日一食を習慣にする。食べないのではない、食べられないのであるし、これ以上の摂取に迫られないのだ。ただ店で働くと週に一二度、多いときなどは三度四度、日に二回もざら、箱に入った円柱や直方体の色とりどりの甘い物を食べる機会が生じる。斜向かえの洋菓子店、そこの店主が何かにつけ美弥都を接触を持ちたいがためにあれこれし作品や売れ残りなど不用意な訪問を過去美弥都は嫌がり指摘を突きつけたので、せっせと嫌悪をあらわにした前より訪問の回数が増えてしまって、〝最低限〟の消費を〝不可抗力〟の摂取が上回る、美弥都の現状である。しかしだからといって洋菓子を食べなければやはり食事は欲するのかといわれるとそれも首を横に振る。飢餓に対する耐性と空腹の心地よさを彼女は何より求める、空っぽの胃であり続けれれば、これが本望なのだ。動きを要する勤務に一時的に数値を上げる洋菓子それも、一口大であることと店長の顔を立てる二つの用件が揃い摂取する。ほとんどが思い違い、だから常連客もたまにお菓子を見繕い私に直接ではなく(あっさり断りを告げるから)店長に差し入れる。