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熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 5

 ちなみに係員は無実、証拠不十分で不起訴処分を受けた、と資料の続きを読む鈴木が言い添えた。
 掘り返す。鬼や蛇を期待する何者かはせっつき、気が気でない者は穴へ蹴落とそうと機を窺う。
 要するに毎年の冷やかしは本腰を入れた捜査を寄せ付けずに撒いた虫除けの香りなのだろう。
 見落としを目に焼き付けろ、張り切った私が内部で肩を叩いた。いやに乗り気ではないか、そうか、もてあますほどの時間をはじき出した、私に内緒で。確かに一日中珈琲と戯れる行為は得策とはいえない、休息に事件を考えろ、と薦めるらしい。
 精神的疾患とは異なる。役割を分けた人格を彼女は複数体と並列の思考回路を共有する、あくまで主導は彼女、美弥都自身。余計な感情を取り除いた人格はたとえば計算能力に非凡な才をみる。
「これが押収品の日記です。容疑をかけられた三人の係員遠矢来緋、兎洞桃涸、家入懐士の手帳や日記帳に事件当日の様子を忘れずに、たぶん聴取が人権を無視した非人道的な行為だったのでしょう、偽りの事実と記憶が重ならないよう即座に書き留めていたのを覚えてます」
 美弥都は動きを止めた。「聴取はあなたが行った?」
 力なく首を振る。鈴木は妙にゆっくり応えた、視線は若干美弥都の瞳をはずす。「送迎だけです。聴取内容の信憑性を僕と種田で確かめるようここの所轄から依頼を受けた。捜査には口出しをせず意見だけを述べる約束でしたので、当時は言われたことだけを終えて手を引きました。ちょうど帰り道だったのでついでです」
「その〝ついで〟が、はじまり」
「いま……なんと?」
「事件はお話の通り二年前に起きた。目ざとく掘り返した鈴木さんの送迎と二年後の明日を結びつける」
「どうしてですぅ?二年も経ってから続きをだなんて、それに犯人が再び儀式を挙げるみたいな部屋で事件を起こすとでも言われるんですか、日井田さんは」
「勘違いなさらないで」美弥都は言う。「過去と現在の裏方は別人かもわかりません。あなたの関わりを見つけ出し利用をしてるのかも。事件を蒸し返す趣味ですから無害といえない、私も借り出された……協力はします」
「よかったぁ」鈴木は背もたれに大いに体重を預けた、かと思うと、「改めて断るのかと。いやいや気が変らないうちにこれもっと」彼は封筒から三冊の手帳を資料の上に置いた。