コンテナガレージ

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鹿追う者は珈琲を見ず 1

 作りかけのコーヒーは後で取りに来るとのこと、味が落ちてもアイスだから問題はないでしょう、最上段に残した顔が言っていた。
 一人減ったカウンター。
 二年前『ひかりやかた』に起こる事件あるいは事故と呼ぶ出来事の詳細を当時のありのまま脚色ほんの一さじ、己の立ち回りを視点に小笠原は昔話を語りだす、起こらせた弁解を私に求めたのか、しかし気持ちよさそうに喋り続けるため挟む口は押したたんで、聴覚とときに視覚を見せ付けて時計の針を進ませた。
 第一発見者は係員の遠矢来緋、彼女は現場の『ひかりいろり』内で死体と一緒にいる所を異常の警告を確かめるべく訪れた係員兎洞桃涸によって発見された。そのとき既に仰向けのお客は事切れていた、兎洞が警察に事実を何度も伝えていた、よっほどショックを受けたんだろう、おかしいぐらい同僚の犯行を否定、食い下がっていた。兎洞は支配人山城への一刻も早い報告に事態を把握しその場を離れた、彼女はフロントに急いだ。入れ違いに休憩中だった家入懐士が現場を訪れ、兎洞と同様の光景に遭遇する。彼はその場を離れず中の遠矢に呼びかける行為を続けた。ドアの警告は自分を含めた係員四名に伝わる。フロント係の兎洞の姿が見当たらないのはこれから現れるか、ここを訪れ立ち去ったかである。宿泊客の興味をそらす役割に徹したのだろうさ、彼は石の廊下で警察に訴えていた。私たち宿泊客が事態を察知したのは、喫茶店に安部といったかな、彫刻家が急いで店を出るんだ、災いが起こる、被害を受けたくなければ素直に従うのだ、さあさあ、腰を上げさせ背中を押すものだからしぶしぶ私とさっきの室田……さ、さ祥江と彫刻家、それから店のマスターもここを追い出されてエレベーターを目指す通路の途中で、騒ぎを視界に入れ、聞きつけたわけ。事情をその場で引止めをくらい警察に聞かれたので逃げようはなかった、警察が到着するまでは通報から二十分程度、かなり早い到着ともいえるが、田舎だからという理屈も通る。僕らが聴取を受けたときはもう数十人単位の制服警官でごったがえしてた、扉を蹴破る人数に達するまで相当な時間僕らは喫茶店で通路の事態に無頓着だったのは、角のあの人の作業が音を騒動を掻き消してのさ。そんで安部という人はだ、こっそり部屋の前の喧騒を見ていたことになる。想像するに店の出入り口の廊下、大階段方面の突き当たりで石を彫ってた、トイレか水分補給で喫茶店に立ち寄るときに知ったんだろう。喫茶店のマスターは朝に一度と夕方にもう一度彼女専用の水筒にコーヒーを充填していたってさ、警察の立ち話が聞こえたんですよ、勘違いしないでもらいたい、地獄耳きっぱり否定します。死体が運ばれたのは……その日の夜だったかな、僕らの事情聴取が各部屋で続いてて窓から警察のワンボックスが出て行く、入場ゲート付近にちらついた跳ねるヘッドライトです、うんうん。翌日に解放される予定を警察も約束してくれていたのが、もう一日、いや半日ホテルに留まりました。アリバイは室田さんとマスターが証人になり、二人の証人が僕。僕らを引っ張り出したあちらさんは熊の像に夢中でかかりきりだった、僕らが到着する前日に像は思いがけずお腹の部分が剥がれ落ちたとか。