コンテナガレージ

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鹿追う者は珈琲を見ず 1

 半開きだった『ひかりいろり』のドアをシステムの故障とは断定しがたい、エラーが検出されなかった、異常を知らせるアラームは正常に鳴り係員に伝え呼び寄せた。機械は正常。嘘、偽りの細工や痕跡は残るのが一般的、消し去るにはシステムを組む段階に関わってしまうと、はい、不可能とはいえない。一応僕エンジニアですからその辺りの知識は持ってるんです、はい。エラーのほか考えられる説明はというと物理的な障害物がドアの開錠を妨げる、妥当な意見でしょう。蹴破ってなだれ込んだ部屋は人間と囲炉裏と横たわる死体と、隠れた紙が一枚見つかる。荒い目の和紙のようでした、撮影した画像を見た。A四サイズ、端は解れ手作りで漉いた紙か、古本屋で売られる出納帳みたいな厚手の紙。
 聴取は正当な取調べの域をしれっと越える勢いをはっきり僕は人権を主張して、拘束時間はほかの関係者中一番短かった、と自負します。自慢じゃありませんよ、僕はね会社の顧問弁護士に権利の要求、このアドバイスをもらって正当な人権を貫いたんです。

 その後弁解に終始した小松原の一方的な語りを美弥都は遮断した。安部、黒い薄手の僧衣に似た服装を纏う彼女は小松原が仕事の連絡を受け席を離れてまもなく、飲み物の代金を支払い、水筒いっぱいに熱いコーヒーを所望した。「熱を帯びていなくてはならない」、聞いてもいないのに階段を見上げて彼女は告げた。
 一段落か。美弥都はコーヒー豆の性質試験は最上段の棚を仕上げた。とはいえ注文の際に幾つかの抽出手法を同時に試すことでこの確認作業はよく言えば至誠、穿ってみると自己満足に受け取れる。料金を徴収した過去を悲観すれば同情は引き寄せられるようだ、常連はよく隙を見せなさい、そのままでは一人身で人生を終えてしまうと彼らなりの人生訓を放っていた。一瓶の性質を、ふさぎ込む過去を振り返る、その思考過程を美弥都は持たない。次の一手、こそ振り返り現在の直線状に立つ私と不順な動機で抽出された液体を傾けるお客にとっての最良である。
 平行作業を取ったとして、二つが限界だ。三つは分単位の遅れが想像に容易い。店長の狙いが読めた。私がひとり立ちを進言する招待を見越して一人でカウンターに立つ状況を体験させるためここへよこした、一人の店番は日常の業務に思うが、なるほど、美弥都は迫る存在を背中で受け止めた。初対面の品種との出会いを事前に学ばせる、という計らい。 
 その後、お客・宿泊客は思い思いの時間を過ごしているらしく美弥都は閉店時刻午後十時を前に片づけを済ませてしまった。
 石の壁はどうしたものか、埃は張り付くのか、ついても床に落ちるのか、静電気は生じないだろう、磁気は発するか、石、これまで石とは無縁だった、片付けた調理台に両手を突いて目を閉じた。