コンテナガレージ

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鹿追う者は珈琲を見ず 1

 手帳も書かれた内容も殺された、死んだ人物の人となりと取り合わずに私は生きていかれた、許されてしまっていた。何事も他人の生命を嘆いて、けれど「一人ぐらいであれば」。神という存在が尊さと自らを戒め、命について改めて向き合う時間をもしかすると人それぞれどこかの時期に近しい人か当人に与える……。
 薄い石を貼り付けた掃除用具入れの扉を階段の段差、最下段のフットライトひとつを押してその蓋がゆったり開く、ハンディタイプの掃除機を手に階段上から順に下に向かってフロアの床、カウンター内を隅々隈なく吸い上げた。作業の合間眺めた手帳を紙袋にしまった、さてと、美弥都はエプロンをはずして最後の目視、火の元を確認し本日の業務を終える。
 駆動音の切れ間を待っていたかのよう、鈴木が顔を出した。彼は手土産を持参する。それは食べ物と二年前に関する新情報であった。美弥都は閉じた抱える手帳のページを想像内でもう一度開いた。