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鹿追う者は珈琲を見ず 3

「もしかして、日井田さん。このこと知ってました?」あまりの理解力に少々彼は疑いを強めた。しかし、彼女が何者であるか、改めて次の発言を受けて鈴木は肝に銘じる、推測という思考過程は彼女にこそふさわしいのだと。

「不可能ではありません、人材もその数も大規模で大掛かりな体制、施設をまかなえると、ありえないといわれる課題の大半は理論的には達成しうる。秘めた可能性に注ぐ労力、意味に人は疑いを持ちます。不透明な未来と堂々巡りの現実に不安を覚える。ありきたりな人生を送るものは大抵この二つを抱え取り出し味わい、それでも日々を送る。敏感そうに装い実は鈍感な体質を見抜けずに、環境やタイミングに原因を押しつける。鈴木さんの話し振りからアクセス経路は遮断、情報の獲得は難しい、ならば交通費をかけてS市の資料館の訪問、しかしこれも見送る。時間もないし休みもお金も余裕は微々たるもの、行って帰ってくる疲労度と明日の生活を天秤にかけたら……興味を失うのは蓋然。そして世の中をありのまま見られる少数の人間が情報を求め網にかかる、危険と知りつつ探るのですから当人たちの自己責任の下、責任を問わない旨の契約書に現地調査に繰り出したことでサインと捺印をしてしまった。警察ならば年間の行方不明者及び失踪者の数はご存知のはず、しかも入山やこの近辺の大自然に訪れた記録が残っていれば、各自の共通項、自己が招いた〝死〟に失踪者は括られる。遠矢来緋さんと関連づけを冷却期間を挟み世間の関心を他所に逃がす、一年前といえば作品の盗用が発覚した画家の話題で持ちきりだったでしょうか、貶める対象を人は何よりも好みます。旧土人の子孫にかかる容疑をそうして視線を逸らせた。湧き出す少数の慧眼で行動力溢れる識者たちは先ほどのシステムが自動的に働き、死が出迎えた。巧妙、鈴木さんを呼び寄せた訳は不可能、不可解に念を押したいのです。特殊なルートで事件を改めるあなたが手に追えず尻尾を巻いた、調べたが主だった成果は得られずじまい、後続に割く費用と労力の削減だと思われます」