コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

鹿追う者は珈琲を見ず 9-2

 腕輪型の端末を翳して開錠する仕組み、利用者がフロントに一度持ち帰って次の利用者に手渡す。鍵が特殊なのか、僕らが使用する携帯端末と形状は若干異なるが昨年発売された海外メーカー、オレンジマークが有名な製品とコンセプトはかぶるが、端末の通信機能は兎洞曰く『ひかりいろり』の趣旨を逸脱してしまうため使用に制限を設けた。ただしお客様の身体異常と施設内の緊急退避命令のアラームにかぎり開錠の許可が下り自動的にドアが開く。不完全なシステム、あるいは不安定に見せかけた芝居。二年前に問題視された半開きのドアについてシステム上の不具合と利用者の不適切な利用に意見は落ち着いた。要因は明瞭、システム開発元は『ひかりやかた』のグループ傘下の企業に属する。目の上のたんこぶである経営母体は親戚筋の失態を叩くわけにもゆかず、死体の不可解な状態と捜査の進捗状況をつぶさに観察と警戒を怠たることを惜しまず、現在のあやふや不誠実な着地点に至る、そう言い切った。鈴木は入室前にでかでかと心配されるほど三度くしゃみを撒き散らした。身だしなみの象徴、ハンカチをいつも持ち歩くしかも予備にもう一枚は上着に忍ばせてある。たまに粘液がこびりつくことが会ってそうであるならティッシュを予備の代わりに持てばと言われることにはそこは男たる者、変なプライドが意地を張らせる。
 息が詰まった。
 室内に釘づけ、目を離す理由は対象物を他にありはしない。その場を離れフロントに帰還する兎洞のウエーブのかかった髪がわずかに戦いだ。天窓が開いてるのか、直後めまぐるしく意識が回り始めた、僕は職務を思い出し颯爽室内に飛び込んだ。
 遺体。今度は右半分が潰れされていた、写真と現物とではこうも生々しい生き物の露出した肌の印象に差が現れるのか。慣れていたはずが、喉を駆け上がる胃酸を飲み込む。変装用特殊メイクをはがす正体を明かす場面の伸びきった肌の質感、額、目、頬に鼻、口。
 囲炉裏の右手だった。またもや忘我に誘われて、現実に帰る、時間が飛び飛びに感じられる。駆け寄るわけを思い出す、頭上を見やった。天窓は閉じきる。羽目殺しだ、二年前も入念な調査を行って、いいや、確認は必要だろう。あれから密かに細工を施したとも限らない。だがしかし、その前にこの人物はどこから入り、何が要因で二年前と同様、半身をつぶされたのだろう。警察を呼ばないと、焦慮の色が濃く胸中に染み出す。自分が警察ではないか、通報に慌てた右手は胸ポケットの警察手帳を掴んで我に返る。
「フロントに連絡をそれからそれから地元の警察にも支配人をここへ、宿泊客には理由をつけて『ひかりいろり』の利用を断るように……」、声に出すと幾分落ち着いた。支配人の到着を待って彼に現場の見張りを頼み、僕は日井田さんを呼びに走った、という流れだ。通路に打音は響いてたから彫刻家安部は熊の像につきっ切りであったと思われる。