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兎死狐悲、亦は狐死兎泣 1-2

 日誌を睨みつける鈴木はぼやく。「家入さんの筆跡はどうも他人が書いたと見えなくもなくって、かなり日によって文字の特徴を変えてますよね。これって意識的なのかな、ふーん……」
「気分屋ですから、家入は」グラスを一口傾けた、山城はあきれて眉に傾斜を作る。「彼の証言を私は他の二人よりも鮮明にあのときを言い表してる、あくまで想像でありますが、彼の記憶力は群を抜いてますよ。それで以前のホテルを辞めざるを得ない状況に追い込まれましたのでね」
「えっと、報告書にはですよ」鈴木は手渡した捜査資料のコピーもこちらに要求した。これも目を通したので、彼女が所有する警察関連の読み物は美弥都の手を離れた。「すいません。ええっと、どこだどこどこだっと。……何度も利用を重ねた常連客の宿泊をチェックイン時にきっぱり断り、これが宿泊客の逆鱗に触れた。大会社の社長令嬢であるその女性は大々的にホテルの不備と非礼を触れ回った。対処に追われるホテルは家入を接客業務からはずし配属を半年間、契約社員に降格させホテルの裏方、シーツなどの回収・洗浄をほとぼりが冷める期間行わせた、とあります。具体的に断りを宿泊客に突きつけた、というのは単純に氏名と顔が一致しなかったからではないのですか?」
「顔が変わろうと性別が変ろうと、フロントを訪れたお客の個人情報は上書きしなくてはなりません」山城は抑えた口調で説明理由を述べた。軽く体を鈴木の方へスツールを回す。手振りが時折言葉を補う。「成長期のお子さんが良い例です。中学生から来年は大学生というと年頃に同一の顔形と体型を求められはしません、我々が情報を書き換える、業務の一環といえるでしょう。家入はだからといって仕事を怠ったわけではないのです。不思議と彼は人の顔を克明に覚えている。私へもその疑いは今月も向けられてしまって、説明は実に面倒で正直困ってはいます」
「コミュニケーションをとりたいのでは?」鈴木は片手を広げた。「ほら、よくちょっかいを出して好意を寄せる、性別に限らずですよ、相手と仲良く、うーん職場の上司だから、スムーズな意思疎通と自分という人間を深く知ってもらおうとした結果、しつこく支配人をちゃかすんですよ」