コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

兎死狐悲、亦は狐死兎泣 3-1

 一人体制で駆け回る捜査は気楽も気楽、調子を合わせるのは体調と空腹具合の二つが主な気にかける変化である。その反面訪問先が多いと次の段階へ移りたくても収集した情報に一旦検討の場を与えなくてはいけない、勿論推測を働かせて、たとえば上司の熊田さんは僕らが知りえる情報を膨らませることで生じた疑問点の解消が不思議と事件の解明に繋がって、種田はというとどちらかと言えば単独行動を好んで、手当たりしだセンサーが捕らえた対象を臆せず調べる。やめよう、捜査方法の考察は曲りなりに事件が手を離れてから行え。
 鈴木はうす暗がり、境内の石段を思わせる外壁の濃淡が薄気味悪くこんなときに間の悪い、魔が差すのか、諸手が飛びだす映像が視界にこびりつく。まだ夕方にもなっていないのだから頼むよ、「想像だ、思い込みだ、幻影」、言い聞かせても足取りはどうにも重たい。それでもどうにかやっとのこと『ひかりいろり』にそっと他人の家に上がりこむよう、家主不在の邸宅に彼は足を踏み入れた。
 断熱効果というのか、室内はクーラーを効かせた温度低下を肌に知らせる。生唾を飲む、幾度となく体験したかつて人が死んでいた、寝転がっていた場所、ここで殺されたとは今回はまだ定かではない。鈴木は中央の囲炉裏に近づいた。背後のドアがゆっくりと閉まる、臆病風に吹かれたんじゃないんだ、鈴木は連れ出す架空の同伴者に弁解する。跳ねた上半身はいち早く異常を察知すべく僕のセンサーが高感度のまま設定の解除を怠っていたのさ、と。
「むしろ、外部で殺されて中に運び込んだ。大掛かりな装置、少なくともだ、体の半身、小松原俊彦は僕より若干上背が低かったんで、それでも約一m七十の、押しつぶす物体が室内で入用になるとどうしても運び出す手間と時間がネックだもんなぁ」鈴木は囲炉裏の縁を踏まないよう歩き回る。「今回は二年前と比べて時間には余裕があった。それもだけど、この部屋への自由な出入りが前提だ。大まかな見当をつけた想像は苦手なんだよな、ぱっとこう他人事だと簡単に閃きが何度も嫌っていうぐらい光臨して止まないのに」