コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

兎死狐悲、亦は狐死兎泣 3-2

 天窓の開閉はこじ開けた形跡、外枠はたいそう綺麗な状態ですよ、屋根に上がった鑑識は大声を張り上げて情報を二階の回廊中に聞かせてしまった。耳の調子が少しおかしいのと、高所はかなり強風に煽られる、風の影響を非常に受け易いんだ。
 鈴木は足を止めた。天窓を徐に見上げる。死亡推定時刻は発見の数時間前から六時間前の間、と鑑識はおおよその時間をはじき出した。昨夜から本日の明け方にかけて殺された、ただ殺害と遺体を搬入時間した時刻が大幅にずれていても死亡時刻は変わりようがない。紫色の皮膚変色がなりよりの証拠、生きながら圧死に至ったと判断すべき、と鑑識は言い切った。しかも『死後硬直がようやくお出ましか』が初見に立ち会う鑑識の一言目。圧迫の、気味悪い姿は彼らにとっては日常なのさ。死亡時刻に開きを持たせた理由は死体の安置場所が移されたことを踏まえたのだろう。それに時期の外気温、直腸内の体温低下は緩やかであるし、ここは盆地。左右を山に囲まれる、深夜もあまり気温は下がらないはずだ、寝苦しさで起きた、部屋を調べるきっかけは気温だった。
 思いついた。これは仮定、想像の話。ショベルカーに代表される重機を人知れず動かす環境の調達は比較的容易だったろう、深夜に近隣住民に気兼ねなく行う土地は有り余る。音を聞いたという住民が名乗り出ようにも重機を直接暗闇に焼き付けられたかどうかは疑わしい。過程の話を疑う、おかしな展開だ。……果たして重機に繊細な圧力を加える匙加減は現実的な前提なのか、鈴木はここでも疑う。
 重量を均等に体へ分散させるある程度硬質な板の上にこれまた均等な重石をそれこそホームセンターで見かける漬物石などを積み上げる、これで余計な人手と操作に知識と技術が求められる重機の登場は取り除けた。天窓を通す空模様が移り変わる、今夜は雨かも、鈴木は
石の壁面は表面の印象が優先するのか、寒気を感じたとたんに身震いした。
 押し込めた恐怖でないんだ、彼は言い聞かせた。そうして足元に注意を払った、囲炉裏、部屋の名称に採用される部屋の中央にすっぽりと、向かい合う天窓に次ぐこの部屋の売りは、贅沢品、そこにあるだけで本来の使用用途を二の次に作られたのだろうか。