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兎死狐悲、亦は狐死兎泣 5-2

 重りを増やしやがって。この野郎、もう口も満足回らない、声が弱い。体内だと流暢なのに。
 剥がれそうだ、皮膚が片側へ流れている、流れたいと切実に嘆願、僕に許可を求める。いけない、それは認められないんだ。波は押し寄せる、砂浜が削られる。海に風力発電の風車を建てたいのだそうだ、発生する磁場に動植物の生態が破壊されかねないので断固建設を推奨したがらない市民たち。おかしな映像が紛れ込む。かなり昔の出来事だ、Z海岸で一時市民団体とベンチャー企業との対峙の場面だ。それほど海岸線沿いの森に人がいた試し、分け入って時間を過ごす人に僕はほとんどであったことはなかった、たまにカメラを携えた写真家かそれとも道楽の類か鳥を収める人には会ったことがある。僕は頻繁ではないけれど、たまに気が向いたとき非番の朝にふらりと立ち寄っていたんだった。
 もしかすると。考えたくもないし、答えにたどり着かないほうが精神の安定は保てるだろう。僕はもう意識を失っているんだろうね。
 日井田さんには結局想いは伝えられずじまいだったか。……うーんそうともいいきれないかも。あの人のセンサーは鋭敏だ、僕の発する心情などは端っから気がついている、それでいて振る舞いを一切変えずに僕と接する。疲れるだろうな、それじゃあさ。
 どちらかというと、軽い。気球のように不思議な上昇の仕方を、あれよあれよと地面と分かれても一度コンタクト、そうしてふらり今度は永遠の離別。ぐんぐんと昇る、怖かった。それも飛び降りる想像が鮮明だった高々十メートル辺りの心境でして、僕は今まさに鳥になったいいえ、飛行機、いいや風に乗って子孫へバトンをつなぐタンポポの綿毛のごとく、それはそれはあれよあれよ優雅に気の向くまま、風の気難しい命令に従いましてじゃんじゃん航続距離を伸ばすのであります。