コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

兎死狐悲、亦は狐死兎泣 6-1

 入院を余儀なくされた鈴木の代役は来週、つまりO署特別捜査課は現場へ送り込む代わりの刑事が取得する休暇に合わす腹積もりらしい。「抱える事件が多いのです」、病院に送られる鈴木は搬送直前の救急車に乗せられる寝台の上で所属部署を庇った、うわごとである、彼の意識は搬送の時点では混濁していた。彼と事件の解明を約束をしてしまった手前、私一人が降りるわけにもいかない。滞在四日目、気になって回廊を彼女は歩いた、角部屋専用ともいえる階段を四つ隅、目に留まった。仕切り板は二枚、通じる二本の通路を遮る。一階の彫刻像が突き当たりである一階……、ああ『ひかりいろり』を中央に据え南北に伸びる通路の行き止まりは左右の壁は未確認である、左右に通路が延びているのだろう、美弥都はアルファベットのHに漢字の工を重ねた見取り図を思い浮かべ出勤、石門といえるだろうか、まるで穴倉、彼女はくぐった。
 鈴木の上司と連絡を取り一時的に捜査の権限を与える許可証の発行を願い出た。端末に送られた警察手帳のエンブレムが捜査権限の有効性・効力を示す、探偵など特殊な人種に貸与されたかつての名残りであるしい、美弥都自身は初見であったが、提供された手前彼女は有効利用を即断、踏み切る。そうして彼女は鈴木のリタイヤに代わり急遽刑事代理を務めることになったのである。
「呪われてるわ、このホテルっ。次に殺されるのはあなたか……私かもよ」室田祥江の口角が釣りあがる。この状況下を楽しんでいる、反面言葉に変えることで守りを固めるふうでもある。後者の傾向が際立って顕著、隠しきれずに尻尾が飛び出てる。わざわざ喫茶店に出張り時間を悪戯に過ごす、一人で夜を明かす恐怖に耐え切れないとそれは公言するのと同義、当人もその自覚はある。大勢ならば襲われる心配は軽減されるでしょうよ。不特定な対象が狙われたという判断か、私はいかにも特定の人物を目星をつけた襲撃に思えるのだが、多数が集まれば、確かに多くの目に晒される、浚うことは難しい。……方法は存在する。だがそのための下準備に費やす時間は鈴木を襲った直後では襲撃はこの先発生する予定ならばもう少し先のことになる。美弥都は二段目の漸く左から三つ目の豆に手をかけた。
 嵩がほかと比べ少ない、愛好者がいたらしい。