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兎死狐悲、亦は狐死兎泣 6-2

「叔母様いつになったら、夕食に連れて行ってくださるの?さっきから煙草ばかり吸って、お母様はいつも煙草を吸う人は配慮に欠けているって仰ってました。本当に嫌われますよ、今度こそ」年端も行かない小学生がいっぱしに大人に利いた口で意見する。しかしながら子供にも人権は宿り守られるべきである。彼女たちの意見を、少なくとも両親やともに暮らす大人たちは各自と同様に聞き入れるべきだ。不遇の子供時代をすごした反動であるはずもないではないか、子供だからという意味不明の理由付け(説明にすら遠く及ばない)で丸め込むべきであっては彼女らの将来には色濃く暗い影を残す、安住の地、声を届ける許可を与えてやるそれは長く生きた者の使命だ。そう、私はそれができなかった。手に負えなかった、投げ出した。利発的な子供であろうとも私は徹底的に意味解釈の良し悪しをぶつけてしまう。単純に耳を傾け不整合で自慢げで夢見がちな話とらやを耐え切れず、いや何度も打ち捨ててしまうんだ、逃げ出したと映るのだろうな、それが。擁護を求めている、反論を待ち構えているとも受け取れるらしい。至誠であるとこうも生き辛い、真相はだ、人と距離を取らされた、私が保てないから。一か零のとても簡単な理屈だと思う、店長は割合私の考えを認めてくれたので現在も仕事は続けられる。案外医者という職業は同様に思うのだ。カウンターに座る室田は確固たる自身の考えを持つ。仕事柄、お客もとい患者と日々顔を突き合わせ、美弥都よりも込み入った意思疎通をこなす。相手は素直と天邪鬼と被害妄想癖の三つに分かれ、病状に素直な者、病状をごまかし痛みの程度や発症の日数などを無意識に弱く少なめに伝えてしまう者。これらは表情で読み取れるだろう、なぜか、数例の候補に絞った病気を束ね、それらからさらに慧眼を強める、緊張が主に偽りの証言を導く、時間をかけ何度かおなじ質問を繰り返すとほぐれた心身はおのずと本来、言うべき事実を述べるのだ。