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兎死狐悲、亦は狐死兎泣 8-1

 調査報告を鈴木はファックス用紙に『ひかりやかた』宛、六枚の綴りを送りつけた。搬送中に意識は回復し、病院に到着するころには会話ができるまではっきりと意識が戻り、驚くのは序の口で救急治療に取り掛かる検査の段階で鈴木の体は筋組織、血管、臓器に異常は見られず、折れやすい肋骨も軽微なひびが見つかったぐらいで、皮膚表面の赤黒い着色にいたっては顔料などが皮膚に染み込んだらしく強靭な肉体と医療スタッフから賞賛されたことに始まり、皮膚自体はそれでも長時間の圧迫には晒されたために、それでも予測を上回る一時間ほどで血流は回復した、体を廻る薬品の投与は医師たちの予想をこれまた裏切る短時間の積極的な医療行為に貢献、と長細い文字が長々伝える、初見の室田が下す診断結果を引き起こす手前の病状であった、美弥都は理解をした。それはそうと、ファックスとは、彼は私の端末ナンバーは覚えているだろうに、病室内での電子機器の使用は禁じられいて当然ではあるのか。
 ファックス用紙は係員家入懐士がうっすら笑みを浮かべて部屋に届けた。美弥都の容姿に対する標準的、男性的ともいえるいわゆる異性を意識した上気する頬と嘲笑とも取れる薄ら笑いに似た口の形に目はとろりと目じりを下げただらしなさの代表。「どうも」といって、続く「ありがとう」に込められる感謝の意を避けた。美弥都はありがとうをあまり言わない。サービス業で必要不可欠だと思われているだろうが、果たしてそうなのか、疑いをかけたことをところかまわず安易に口にする人たちは考えもしないらしい。一度か二度、コーヒーに髪の毛が浮いていた希少な例があって、お客は謝罪を要求した。新しいコーヒーに変えて差し出し、帰り際レジで御代はいただかなかった。送り出す際に声を掛けなかった。ありがとうごさいます、は店を訪れ飲食物を頼みお金を落とした方の選択行為に由来する、つまり数ある店の中から当店を選んでいただき、まことに感謝しております、という「入店」に対しても通用する意思表示である。したがって粗相を犯した私たち店側は〝ありがとう〟を伝える資格を剥奪されたので、いえないのだ。それを、勘違いに拍車を掛けたお客がありがとうの一言もないとは接客態度としてはあるまじき行為だ。こんな店二度とくるものもか、ものすごい剣幕で出て行った。スライド式のドアが勤務先の出入り口を呼び起こした、美弥都は客室にしては間口の広いドアをまじまじ再認する。高さは海外の旅行客、段差を配した床は車輪と加齢、身体に不自由を抱える客への気遣い。気遣いと取れるのは、お客様本位、要するに接客側の利益追求のため。前面に押し出さずに宿泊客の気づきによってプロモーションを図る、健全である。