コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

兎死狐悲、亦は狐死兎泣 8-5

 休かに日井田さんと会えると知れて、正直おどろきはかくせませんでした。フロントの支配人に係員のしょう介を受け日井田さんの来訪を聞いたときはこれは運命でないのか、と軽くはなであしらわれる、そうぞうはつきます。それでもうれしいことはかくせませんでした、ですのでびっしょり汗をかいた対面となったわけです、一階通路は過ごしやすい涼しげな空気をまとわせてくれたので。ご指てきの通りぼくは通路をかけたましたよ、あなたの声が聞こえたものでつい答えがこぼてました。ちなみに、ホテル内の配置図はまだあの時は頭に入れておらず、左右を間違えたので反対側の東側の通路にかけ寄って、突き当たりの北側のふくろうの像へ行き着いて引き戻って飛び跳ねる鮭の像に迎えられて、それからきっさ店の入り口を西側通路に見つけたものでして……弁かの対象がいまいちはっきりしませんね、謝るほどのしったいでもないのだと今更ながら気が付きましたです、はい。文字を書く行いもまんざら悪くはないのかもしれません。たん末ばかり触っている現代人(僕も)は以後二世代あたりにえいきょうが現れ始めるんじゃないかと、まあ危ぐしても仕方ありませんよね、僕らはそのとき世界を離れてますし。次の世代へ、という使命は自己ぎ牲より己の意思を形に仕上げてくれよとの、ずうずうしい、死んでもなお生にすがる。あとに残された命に貢けんした自分を誇らしく思いたい、ねちっこいがん望ではないのでしょうか。可笑しい鈴木がさらにおかしなことを書き連ねる、そう笑ってください、笑ってやってください。どうにも死生かんが変わったというか、あれはもしかするとあっちの世界だったのかという場面を見てといいますか、体験したぼくは人の良し悪し、いえもっと深い根源の正否がなんとなく思い込みかもしれません、わかるようになってしまったのです。看ごしの女性は大変そうなきんむ体系にへいぜんを笑顔を装っています、顔の下に本心の悪たいをつく眉のない、くまができた、ほほがこけた、あごの尖った、八重歯の這い出るおぞましい本心が眠るのが透けて見えてしまった。思い込みだとは思います、ぼくの担当医の三十代ぐらいの男性は女性に興味を持たない性質なのは、まあ不必要なボディタッチ(けん康な左半身を入念に触られた)と言葉遣いと肘から指にかけた男にはない独特のはじくような仕草で判別はできてしまいます。その二人ともう一人、古びた年代物ビルに事む所を構える探偵に出会いましてね、となりの病室に人を訪ねてきたそうで間違って(これは本心だと思う)ぼくの病室をあいさつしならが軽やかに入った。面会しゃぜつの札が下がるとはいえ、病室のけいご人はぼくなんかにはつきませんから隙を付いた入室は特に度肝を抜く神業とはいえません。鍵は開いていましたし。手紙を書き終え移動手段を探すつもりでしたので、頼んでみましたよ。承だくはもらえないにしても料金を提示さえすれば、仕事は引き受けてくれるのでは、勢いは大事ですよ。すんなり自家用車を貸してくれましたね、彼。案外いい人なのかも、決断にも陰りは見当たりませんでした。(このあたりで特殊な信じがたい能力への信頼が高まった)
 明日の午前中に第一報をお届けします。捜査をお任せして大変お怒りの様子は人一倍理かいしていますので、なにとぞ投げ出すのだけは思いとどまってくれれば、と願っております。