コンテナガレージ

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鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 6-2

「『ひかりいろり』だと特定された理由は?」鋭い眼差し、山城は裏表を持たない人種なのかも。
「天窓は床と平行に屋根に嵌る。これに屋根に上がった者の心理を想像する、答えは自ずと出る。天道虫の習性に近いでしょうか、頂上を目指したい、上がった先は平坦な屋根板、進むでしょうしそこに何かがありそうだと興味が湧く」
 躊躇いはコンマ一秒にも満たないが美弥都の感知には十分だった、山城は言う。「日井田さんには折り入ってご相談と申しますか、できれば今……」
「こちらの要求を飲んでください、アイロニーではなりません、判別する力は持ち合わせていると自負してますので」
 要望はすんなり受け入れられた。後片付けを進める。最後に残ったカップを引き寄せ洗う。少しばかり時間が要するだろう、私がここを発つまでには、美弥都は別人であるかのごとく事件に積極的であった。

「本当に、よかった」
 誰に言うでもなく、言葉が自ら形を揃え口を這い出た。いっそのこと見られてしまえば良かったのだ、ふがいない姿を。力を抜き、カップが割れるみたいに、視線を浴びたなら〝戻れない過去〟と割り切れたのだ。
 二列目の豆たちを漸く片付けたか、片足を階段にかけエプロンをはずした、店内を振り返る。山城は鈴木に一報を入れていた、念のため、私が求めたのである。彼の前で電話に出て、「調査は早くて数十分後、折り返しの回答は電話口かファックスで伝える」、とわざと声を張る鈴木が報告していた。しかしだ、受け取りは数時間後なるだろう。狙いはほかにある。〝彼から得た情報〟、が価値を持つ。
 タバコを吸い忘れていた、彼女はあっさり欲望を履き捨てられる、生態維持に不必要である、きっぱり事実を突きつけ黙らせた。さすがにそれでも小腹程度を満たす欲が生まれる。階段を上り切り照明を落とす、通路を歩いて地下のフロントを目指し無理を頼んだ。係員の家入に念を押されるもホテル入り口で美弥都は車を降りてしまい、月の位置を目印にとぼとぼ歩き始めた。