コンテナガレージ

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鯨行ケバ水濁ル 梟飛ベバ毛落ツル 8-3

 豆を見極めるのと事件を紐解く速度は連なった規則性を感じさせた、なるほどフィギュアなるものをショーケースに飾る愛好家の心理が読み解けた。独自に物語を二次創作する手がかりにケース内の人形をときに並べ替え、また元に戻し、別れや追加による厚みを楽しむのだ。非表示をあえて選んだ理由がわかる気がする、過去と訪れた本日をまぜこぜにお客個人の一杯を選べ、という想像の強要なのだろう。ただ〝自由に〟と受け取る者、方や丹念に一年前の二日目の朝の一杯を探り当てる者。物語は入れ替わり立ち代る人物によりけり。
 まずは注目を浴びた箇所を片付けることにしよう、同じ棚の異なる時間の逸れは材料が届き次第取り掛かる。いい機会だ、鈴木の代役にあの風船のような探偵を呼ぶか。面倒、実に認めがたい。億劫も億劫、退屈極まりない不順に満ちた動機そのものではないのか。そうであってもだ、彼女は味見をし終えた酸化の進む温い黒い粘性を帯びたような液体の真上から表面に浮かんだ脂に浮かぶ映りこむ自身を見つめる、見させられる、見ている、世界は二つの思い込みにより同時に互いの想像に対象物を現す。獲得した機能は優位を誇ってしまう、ゆえにおいそれと手放すなどとは。もうそういった人種が出現の機会に恵まれる、けれど現行システムが生存を拒んで止まない。一度に大量の対処を、強制的に優先させる異状が、見てみぬふりの限度を上回って、漸く認めざるを得ない、しぶしぶ、しょうがないが一応は、始まりに違和感はつき物だろうさ。
 許される酸味の広がりを口腔内全体に感じられ、居座るかと思いきや配慮、すすっと喉に消えて果実の置き土産を残して行く。
 私は痛がりなのかもしれない。一人は好ましい、これは思い込みだったのかと傷心に気持ちを這わせる。あの娘の残留は認めよう、だがその量はかろうじて観測される微量、である。微量が残されていた、だから……まあいい……単独を許せたのかもしれない、どちらだっていいさ。
 それから美弥都はあえて時間に追われた、矢継ぎ早に検証の速度を速め、彼女は三段目を貸切までに片付けてしまった。