コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

蓬 麻中ニ生ジヨウト助ケナケレバ曲ガリクネル 自ズトハ偽リ 2-2

業務日誌は係員各自がその特異な事情を同僚に隠し業務の様態を取り繕うと同時に、滞りが生じることを悟られずに日誌への書き込み、全項目の確認という〝業務〟を与えた。動体の認知を不得意とする遠矢さんには立ち止まる対応とホテルのコンセプトに準じる少ない接客機会、視覚欠損の兎洞さんは全項目に加え、お客の到着を視認し易いガラス張りのフロント。遠矢さん、家入さんにも当てはまる。ここをおいて他に居場所が見つかるかどうか、正直同等レベルの待遇、しかも喜んで雇用先が迎え入れることは万に一つの零に近似した確率である。言い切ります、優しさは後に牙を剥きます。家入さんは動いた、ドアを開けたまま、旧土人の信仰に生きる現実を虚ろに生きる遠矢さんの曖昧さに自分たちの未来を賭け、願った。不確定だった兎洞さんの行動は運良く聴取の際、遠矢さんを彼女も見守り意向に従ってくれた、危機を脱した、犯人が兎洞さんであるとも知らずに。持ち上がる、という思い込み、ドアの一枚を軽々レールに運んだ。持ててしまえたのでしょう。半開きのドア、死体と見つかる遠矢さんの不可解な言動に、事態への淀みのないマニュアル通りの適切かつ迅速な対処を果たした第二第三の目撃者たち、そこへ万を持しての半身を圧縮された死体に改めて向き合う。漸くここで先ごろからの要望にこたえられます、死体は屋外、ホテルの外で仕上げ搬入されたのです。問いを無視して続けます、天窓とドアと囲炉裏はまったく関係がなかった、見当違いの対象を警察はせっせと必死に調べた。運ばれたのです、堂々入り口から通路を、エレベーターに運ばれ『ひかりいろり』へ。彫刻像、あれが死体そのものです。死体発見前の早朝に形作られる真四角い彫刻像が運ばれましたね、二階南西角、熊の立像が置かれる通路の突き当たりです。そう、石に線を描き掘り進める大まかなあてをつけた緩衝材に包まれるただの直方体の札幌軟石でした、ここから既に刷り込みが始まっていた。削る、そぎ落とす、誰もがこれから少ずつ像の全容が見える……、思い込みだったのです。削り取られた石は破砕、粉々に石ころ大に転がる、石の内部に空間が設けられていると誰が言い当てられたか、ええ想像を超えた突拍子もない考えをするはずもありません。石の塊、人の頭は固い。空室。部屋を借りた宿泊客が入れられ、替わる古い像と新しい真四角の彫刻像、事前に内部を空洞に仕上げていたのでしょう。