コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

店長はアイス プロローグ1-3

「いい加減にしてくれよ!朝っぱらから、私が何をしたというんですか、だいたい……」柴犬の隣、あお向けになり、首が背もたれを越えてストレッチでもしているかのような姿勢の女性が天を仰ぐ光景を男も捉えたのだ、動きが止まる。
 人形のようなそれは先ほどよりも人の気配が感じられない、大嶋はつばを飲んで思う。
「マジかよ……」男もようやく状況を飲む。いくら大人としてビジネスでは言葉を使い分けようとも、咄嗟の出来事にはその人が普段日常で使用する言葉が発せられる。
「マジです」大嶋も応えた。
「……警察だ、警察ですよ」男が慌てる。
「私はこの通り散歩の途中で、携帯は家に置いたままで」
「わかりました」男の顔が急に引き締まる、いつもはこのようにてきぱきとそれでいて有能な人材なのだろうが、普段とのギャップを見てしまったらこの人を慕うのは裕福な家庭を夢見てる職場の女性社員だけだろう。そう言う私も取り乱したのだから、人のことは言えないか。大島は縛ったリードを解いて、ベンチから少し距離をとった。遠くでも近くでも女性の死亡は取り返しのつかない事実であるが、心理的に死と距離を保つべきだと体が反応した、と大嶋は解釈する。コロはもう女性には興味がなく、今度は早く家に帰りたいらしい、前足で大嶋の足をノックするように触る。
 コロを撫でようと屈んだ時にベンチの下、コンクリートの壁とベンチの間に四角い物を見つけた。大嶋は咄嗟にジャージの袖を伸ばして直接掴まないよう、それを掴んだ。
 文庫本である。リードの輪を手首に通し、もう片方の手、袖でページをめくる。カバーのない本であった。文字がさかさまだ、上下を返す。あれっ?本を閉じて表示を見ると、中の文字と表紙とが反対に印刷されていた。
 電話を終えた男が大嶋に歩み寄って手元の本に注目する。「それは?」
「ベンチの下に落ちていたもので、もしかすると彼女の持ち物ではないでしょうか」大嶋は上ってきた太陽光に照らされる男の腕時計に一瞬、見惚れる。私が欲しかったモデルだ。しかし、即座に現実に引き戻される。黒光りする時計から指し示す時間に意識がシフトした。
「まずい、会社に行かないと。あの、ここはお願いしますね」
「ちょっと、ちょっと、はじめに見つけたのはそちらですから、ここにいなくては。私だって忙しい」
「しかし、今日は大事な会議がありまして、遅れるなんてもってのほかです。どうしよう。うんと、そうか、これ私の名刺です」通勤で利用する電子マネーのカードを大嶋は持ち歩く、喉が渇くいたときの緊急用に持ち歩いていたのだ。かさばらないので、ポケットに入れている。カードをしまう、薄い皮のケースには予備の名刺も入れていた。
「事件だったらあなたが第一発見者ですよぉ?」走り出した大嶋八郎に男は投げかける。
「名刺を警察に見せてください。私は何もしていない、彼女を見つけただけですからぁ」