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店長はアイス 恐怖の源1-1

 恐怖の源
 1
 熊田は上着を抱えO署に出勤する。彼はこの警察署の刑事で窓際部署に籍を置く。通常では彼が所属する部署と言えば、雑用すらも押し付けられない人材の掃き溜めとして周囲からは認識されている。しかし、熊田には無風。噂や他人の評価には無関心な男だ。夏用に切りそろえられた髪は両サイドが短く刈り込まれていた。髪を切る時間というのが彼にとっては数ヶ月のたびに訪れる苦痛の時間だった。それが昨日の休日である。いつも美容師に任せて髪を切る。日ごろの疲れで意識がとんだ数分で彼の髪がシャリシャリと髭のような手触りに早代わり、気がついたときにはもう手遅れで、なぜ、いつもとは違う髪型を選択したのかと熊田は美容師に聞いたら、「暑いので短く切ってくれといわれたので」、そう答えたのだ。言った覚えはあるが、まあいいかと、店を出るまでに諦めはついたし、髪は生えてもくるのだ。明治初期の繁栄期に立てられた建造物は冬こそ寒さが厳しいが、夏は風通しがよく、クーラーいらずでロビーは快適そのものであった。年季の入った横に広い階段を上り二階へ。部屋に足を踏み入れた。
「おはよう」
「おはようござい、ま、す」立ち上がろうと腰を上げた鈴木が止まった。
「髪のことなら、一回だけ聞くチャンスをやろう。二回目は受け付けない」熊田は上着をハンガーに掛け、デスクに着く。
「イメチェンですか?」鈴木の目線は熊田の頭部に集中。
「誰を意識したイメージチェンジだ?」
「署内の女性職員ですよ」
「食堂のおばちゃんも入るんだな?」
「熊田さんがそういう趣味なら」
「くだらないもう、この話は終わりだ」
「何にもきいていませんよ」
「おはようございます」眠そうな瞼で相田が入ってきた。鈴木、相田は熊田の部下である。
「おはよう」
「相田さん、相田さん」ショルダーバッグを抱えた相田があくびをかみ殺す。隣の鈴木が肩をつつく。
「なんだよ。眠たいんだ、まだ始業時間まで十分ぐらいあるだろう。寝かせてくれよ」
「昨日休みのくせに眠たいって、どういうことですか。そんなことよりも見てくださいよ」鈴木はささやく。
「ああんもう、うるさいな。朝方までレースを見ていたから眠いんだよ、雨で終わったのは六時半だ。っつたく、去年もたしかこうやって、ふああああう、あ。仕事に来たっけ……」言ってる傍から相田は意識を失い、鈴木は髪形の忠告をあきらめた。