コンテナガレージ

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店長はアイス 恐怖の源3-5

 結局、世界は私が思うようにしか動かないし見れないのだから、あなたが気に病んで塞ぎこんでいればその通りに、一方明るく、はしゃいでいたらその通りの世界が待っている、内容としてはこんな感じだろうか。最後の、あとがきを読み出して、聞き覚えのある声が耳に届いた。ちらりと入り口を振り返る。会社の同僚である。相手は知らない顔。見られたくはなかった。どうしてだろう?一人だから、それとも寂しいと思われるから?わからない、けど、急に私が恥ずかしくなった。二人は私の横を通り衝立の奥に座った。通り過ぎる時は背を向けてバッグの中身を弄った。二人が座るや否や顔を伏せてレジに急いだ。幸い、観葉植物が二人を遮ってくれた。代金を払い、勢い良く外に出てしまい人とぶつかった。謝る。相手も怒っていない様子、私が派手に転んだから。差し伸べられた手には理由はないけどつかまりたくはなかった。払いのけることもできず、いつのまにか涙も出てきた。もう一度、大丈夫と訊かれる。男女二人の間は軽く指先で手がつながれていた。顔もあわせずに頭を下げて軋む階段を降りる。一目散に車へ。駐車場の砂利で足がすべる。意識だけが前へ前へと加速をやめない。満腹で泣けるなんて芸当、私にできたんだ、と紀藤香澄は感心する。運転の自信なさで頭から突っ込んだ車は駐車場の国道を向いてたためにうつむいて泣き顔を隠した。
 車内の蒸し暑さにも快晴の空にも悪態をついた。虚しさか?問いかける。なぜ私は泣いているのだろう。本に書いてあったではないか。わかっているくせに。
 エンジンをかけた。三回目でやっと始動する。
 笑ってしまう。不条理に笑えた。私を取り戻した証拠。
 そうしたら体が風船みたいに軽くなった。
 フロントガラスを通して見えるのはカレー屋の隣、ジェラートの店。同僚に見られても構わない私、いいや、アイスを食べたい私を優先させて彼女はエンジンを切った。