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店長はアイス  過剰反応1-1

 過剰反応
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 紀藤香澄は休日の午前、車を走らせる。今日は餃子を食べにいく予定だ。今日、狙うのも人気店だから、朝食を抜いてさらに早起きしてまでおいしい物を食べたいと思う。前は、一人行動も恥ずかしくて外食は敬遠していた。でも、もう構わないでいられる。だって、人はそれほど私に関心を示していないのだから。取り合うのはバカのすること。そう、昔の私は余計な事柄について深入りしすぎていたんだろう。結局は私の人生なのだ。時間も限られている、心臓の鼓動だってそうだ。雑踏や隣の席で聞こえる取り止めのない話は耳を傾ける価値はまったくないのだ。今なら、太鼓判を押せる。だって、誰も自分のことばかりだから。道が開けたのはつまりは、救われる自分を拾う姿が想像できるからさ。決して、人のためなんてことではない。好きだった人は、結婚を考えていた人は私の手元から離れた。影も姿も記憶もすべて幻想で嘘で世迷言で、単なる私の想像だったら、簡単に整理できる。うん、それでいいのかも。

  先週は驚いた。店に同僚が来たのは思いもよらない鉢合わせだった。正確には会っていないけど、もしかすると相手は私を見つけたかもしれない。でも、先週は何も言われなかった。詮索も探りも会話にはちくちくと入れてこなかったと思う。まただ。気にしている。相手が言わないのは知らない、会っていない、見かけていないと決め付ければ、私は楽になれるではないか。けど、私を見かけたのに黙っているかもしれない。すると平然と仕事をしていた私はこっけいじゃない。同僚には決してなりえない、そのことは頭の中で理解に及んでいるかしら?ええ、他人だもの、私とは別人。あなたの発言はすべて、真実を語る?いいえ。同僚もそれと同じじゃないかしら、知っていても知らなくても本心は本人の意識次第。犬が飼いたいって、リードだけ買っても散歩には連れて行けないの。いらない想像だけが膨らんで溜まって仕舞いには破裂し、塞ぎこんで息が詰まるの。