コンテナガレージ

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店長はアイス  過剰反応2-6

「ベンチはここが本来の位置でしょうか?」
「固定式のベンチだ。ボルトが地面に刺さっている」熊田の鼻から煙、流れて霧散。
「ベンチが移動したって言いたいのか?」鈴木が言う。
「以前から置かれていたのか、と思ったのです」
「つまり、前は無かったと?」

「はい」
「なんで?」
「間隔が合いません。等間隔の位置がこのベンチにだけずれが生じているのは、不自然です」
「桟橋の導線上にあるからだろう」
「クルーザーの大型船は港に停泊させる前はどこから海に移すんです?」
「どこかに斜路があるはずだ。おそらくはそこからだろう」
「物知りですね、熊田さん」熊田の博学に鈴木が感心する。
「覚えていたに過ぎない」
「僕だったら右から左に知識という知識は抜けちゃいますよ」
「大卒だろう?」
「僕は……推薦です」
「風当たりは強そうだな」
「聞いてくださいよ、入学後にできた友達の態度の変わりようったらないですよ。もう、冬と夏ぐらいの温度差ですからね、僕だって学内成績で上位だったから推薦枠に選ばれたんであって、けして入学が決まってから遊びほうけていたのではありませんよ」
「もう、いい。わかった」熊田は鈴木のおしゃべりを遮り、ベンチを穴が開くぐらい凝視する種田を呼ぶ。「署に戻るぞ」
「相田も戻っている頃だ、鑑識も遺体の概要ぐらいは調べがついている。ここに留まっても死んだ人間が化けて出てくれるわけでもない。まあ、出ても見えないからな」肩をすくめる熊田。
 鈴木と種田も後に続いた。ようやく、薄暗さの兆候が見え始めた空にうっすら赤い光が斜めから差し込む、港を熊田たちは抜け出した。黄色の進入禁止のテープが生き物みたいにバタバタと鳥の羽ばたきを思わせた。