タイミングよく、高齢の女性が籠をレジに置いた。私が対応する。袋に店長と林道が手際よく、皿を紙で包み、店長が開いた袋の口にビンの地ビールを先に入れて、最後に割れ物の皿を一番上に置いた。
「ありがとうございます」私に続いて店長、林道が声を出した。
「本当に今日は帰ってもいいんだ。片付けるだけだしね」店長は片目をつぶって合図を送った。どういった意味か、私にはわかりかねた。
「いいえ、大丈夫です。裏を返せばそれほど忙しくはない、ということですし、だったら疲れていても最後まで付き合います」
「そう、ならしかたないな」
「二人とも休憩ですよ。お茶でも飲んでください。ここは私にドンと任せてください、休んだ分の仕事は取り返します。そうそう、テーブルにお客さんが差し入れてくれた、プリンがありますよ」
「それはいいかも」
「ね、紀藤さんも」林道の結んだ髪が首の角度と連動してふうわり、振り子のように位置を変えた。
「はい」私はそっけなく頷く。
店長が腫れ物に触るようにきく。「甘いもの嫌いだっけ?」低いトーンの答えは賛成に聞こえないみたい。言葉はやっぱり不自由。
「いいえ、そういうわけでは」
「……嫌いなの?」二回目の質問。
「甘いものではなくて、プリンが嫌いなのです」
「それは初耳」己の評価基準が世界の結果らしい。自分との比較か……。
店長は、斜め上を見上げて、また尋ねる。「どうして?」
私は言ってやった。「どうしてでしょう。誰かの好物だったからですかね」