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店長はアイス  過剰反応5-1

 慌ただしい出勤に、大嶋八郎は昼食の弁当を家に忘れてきた。貴重な小遣いに手をつけるのか、とショックで丸みを帯びた姿勢が食堂へ向かう廊下、窓にうっすらと自分の姿が映った。コンビ二での我が社のシェア獲得をコンセプトに掲げた今回のプレゼンは高評価を得た。社長が認めたのは大いなる前進であった。ただ、プレゼン自体は前回の細かな指摘に基づいた改良である、新商品を生み出す面白みや期待感はまったくなかった。社長のお墨付きは完成に近い商品のチェック。他の役職、肩書きを持った人間でも代わりは勤まるのではと思う。社長に帯同する人間は大嶋八郎の見えない所で仕事をしているのかと思ったが、特に会話もなく座っている人物が会議室に数人存在していた。 

 食堂は切り抜けたプレゼンの話題で持ちきりであった。社長は忙しいらしい、会社に横付けされた高級車も話題にのもぼっていた、相当高価な車らしい。うん千万か、限りなく自分の世界とは異なる次元の会話だ。話している社員はもちろん私と同じ側の人間だ。社長はこの会社の一社員であった過去、つまりは私と同様の境遇に置かれていたんだろうか。いいや、雇われ社長の可能性だって考えられる。社長が代わるたびに経歴を調べていたのではキリがない。気にとめない思考が得策なのだ。社員には、命令を下す人物が突拍子もない方針の転換、たとえばグローバル企業に方向転換を目指して社内公用語に英語を採用してしまう、ぐらいの衝撃がもたられたらば、うんおそらくは社長にも少しは、いいや大いに悪口を言うために名前を覚えるだろう。大嶋八郎は列に並び、オレンジのトレーを手に取る。ショーケースに並ぶ好みの小鉢、納豆と冷奴をトレーに移す。白米に、味噌汁、皮目がパリッと焼けた鶏肉も取って、会計。若い社員は皆、至急された端末をかざす。代金は月末の給料から引き落とされるらしい、私は未だに未使用だ。機械に疎いのではない、弁当を食べるのだ。妻曰く、一人分も二人分も作る労力と忙しさは一緒。だったら、食材を余らせないために私の弁当を作った方が効率的で節約にもなるらしい。

 空席が見つからない、トレーをもってあたりを伺う。すると、開発部門の副室長が手招きで私を隣に呼びいれた。