コンテナガレージ

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店長はアイス  過剰反応6-1

「紀藤香澄の行動は、ネットに記録が残っていました。更新日は、六月三十日で止まっていますね」鈴木が後部座席で窓を閉める、今日は風が強い。「いわゆる、食事の記録ですね。今日の出来事とか特定の思想は書かれていません。なんでしょう、良く言えば簡素、悪くいうと、ただの記録です。感想が欲しいのでしょうか?」

「食べ物の写真をアップすると、一緒に食べているという感覚を抱かせる。たとえ、一緒にいなくても味わった空間を疑似体験させる作用がある」

「熊田さんは、まさかブログをチェックしているんですか?」

「見たことはある。が、定期的に個人のページを訪れはしない。それで?」

「ああ、はい。ええっと、スープカレーの写真と店内の様子が数枚、コメントは店の名前と味の感想です。多分一人で来たみたいですね。向かいの席は空席ですもん」

「並んでも座れる」熊田が言った。口にはフレーバータイプのパイプをくわえている。

「ダメですよ、これ一人掛けの椅子ですから」言葉を切った鈴木は続ける。「でも、なんだか寂しいですね。一人で食事して写真を撮って、ブログに載せて……。一件のコメントもないんですよ。誰も見ていなかったんだろうな」ミラー越しの鈴木が遠くを見るような目つきで車窓を眺めていた。見ているのは遠くであるが、おそらく景色はしっかりと見えていないだろう。熊田は車線に意識を戻した。

「誰かが見ていると救われ、見られないとやりきれないとは、思いません。というか、思えません」種田が車に乗り込んではじめて今日、挨拶以外の言葉を話した。言葉を減らすと注目度が上がるのか、おもしろい。熊田は沈黙の新しい効果を忘れないように記憶にとどめた。

「書くのだから、視られるのが前提だろう?」

「単なる記憶の整理かもしれません」

「キャッシュの処理か」

「はい」

「パソコンみたいですね。僕なんか、一晩眠れば昨日のことは綺麗さっぱり忘れますよ」

「お前はな。しかし、紀藤香澄には難しいことだった。視覚と触覚、声に出したら聴覚も感覚器官を総動員させて、記憶を振り返り、不必要なものを捨てる。現在は彼女のような出来事の処理が一般的だろう。これまでならば、打ち明ける相手が傍にいたが、何らかの作用で処理ができなくなった。記憶のゴミは溜まる一方だ。そこで別処理の仕方を探し、ネットにアップする作業に行き着いたんだろう」熊田は間を取っていう。「あるいは、正直であるからか」

「正直?」