コンテナガレージ

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店長はアイス  過剰反応7-1

 大嶋八郎の帰宅時間は通常勤務とほぼ変わらない午後十時過ぎであった。冷涼な空調が効く電車から一歩ホームへ出ると蒸し返すような熱気が瞬時に体に寄り添う。呼吸も幾分苦しい。脂肪のせいもあるだろう、もう少し体重を落とさないと。しかし、前よりかは、そう朝の散歩を始める前に比べると五キロは軽い。ただし、汗の量は相変わらずだ。ホームからエスカレーターに繋がる、扉をくぐる時も隣の女性に避けられた。射殺すような視線を浴びせられるのは堪える。慣れることは決してない。平常心を保てるのは、感覚の麻痺による一種の防御本能だろう。
 夕方に終わった仕事の後、私はある店を訪れていた。そこには半年前から暇を見つけては通っている。特にめぼしい商品をチェックするために足しげく通っているのではない。そこで働く店員に用事があるのだ。用事とはいっても、一方的な観察である。声をかけたことはないとは言えないが、商品についての説明を求めたことは何度かあった。私は覚えてもらいたい気持ちと不用意に通っている変な男だと思われたくはない気持ちとが互いに順番を譲っては、その都度、知って欲しい自分が勝ち、店を訪れて細々した品を買って帰るのが楽しみで生きがいであった。今の生活、妻と娘との生活を壊そうとは思っていない。むしろ、これはこれで安定しているからこその停滞で、新鮮さやスリリングは娘の成長と共に失われた。娘の反抗期がはじまってから、私の家庭での居場所はさらに狭くもうほとんど片足で立っている。改札を抜けると仕事帰りの父親だろうかと制服姿の娘と一緒に寄り添い語らい帰る背中を目にした。私とは正反対。けれど、今日の私は気分がいい。そんな他人事もお構いなしで、スイスイと足が居場所のない家に向かっていようとも楽々で心が軽い。快活で明るい笑顔、微笑んだら頬の高い位置に笑窪が作られるのだ。見ているだけ満足できる。それ以上はいらない。