コンテナガレージ

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店長はアイス  過剰反応8-5

「お子さんの卒業から、大嶋さんとはお会いになりました?」
「会ってはいない、と思います。ご兄弟はいないようでしたから」
「一目見ただけで大嶋さんだと、良く気づかれましたね。深い意味はありません。その仕事柄、大勢の人から話を聞く機会が多いとあまり他人の事を覚えている人は少ないので」鈴木は多少かしこまった言い方で取り繕っているのだと、自分でも思う。彼女を意識してのことだろうか。
「私も年に一度は新入生を迎えますので、割り合い人の顔を覚えるのは得意なんです。それに、生徒だけではなくてクラスを受け持つと親御さんの顔も覚える必要があります」
「そうですよね。そうか、そうか」鈴木はわざとらしく、側頭部、こめかみの辺りをペンのノック部分で掻く。
「刑事さんって、もっと怖い人を想像していました」
「えっ?」
「ごめんなさい、失礼だったからしら」
「そんな、滅相もない」顔の前で鈴木は手が振る。
「滅相って、やっぱり面白い」
「ああ~、先生、口説かれてるー」日陰の生徒がからかう。
「こらぁ、そんなんじゃないの」
「だって先生赤くなってるもん」
「ほんとだ、ほっぺが赤い」意見は生徒に伝播する。
「静かにしなさい。ごめんさない」
「いいえ、僕はその迷惑ではないといいますか……」
「はいっ?」
「なんでもありません。はい。あっと、そのどこまで話しましたか、僕?」
「大島さんと会っていない……」
「思い出しました。大嶋さんとは会っていないのに覚えているものなんですね」
「街を歩いているとたまにあるんです。通りかかった人を知っているけど思い出せないことって。カフェで落ち着いているときに、ふっと、いまみたいに思い出しますね。いつもではありませんけど」
「ああ、指名手配の顔を一緒だ?」
「指名手配?交番に貼ってるポスターですね、はい、はい」教師は胸の前で小さく手を合わせて叩いた。口元が左右に引かれる。
「僕もたまにそれと似たような状況で犯人とニアミスした事がありまして」
「鈴木ぃ――、そろそろ戻るぞ」相田が呼ぶ。
「はあい、今行きます」
「生徒さんに話を聞いてもよろしいですか?」鈴木は慌てて言う、時計で時間を確認した。呼びかけから少なくとも五分が相田の待ち時間の限界。
「ええ、どうぞ」