「申し送れました。私、O署の熊田です」
「同じく種田です」
「警察?」従業員の二人は顔を見合わせる。
「この方が先月の二十三日にこちらに来たと思うのですが、覚えていますか?」熊田は写真を見せる。二人が顔を近づけてそれを確かめる。一人、背の高い女性が言う。
「開店前に並んでた人だよ」隣の女性は思い出せない表情だ。
「ほら、窓際の席で一人で食べた人。餃子を一人で食べるのって勇気がいるよねって話してたじゃない」
「ああ、はいはい。思い出した。あの人ね。そうだ」がっしりとした女性が言う。「その客さん、本を忘れいきましたよ。まだ、レジにあると思います」二人はレジに駆け込んだ。
「どこにしまったっけ?」
「いつもの籠に入ってないの?」
「籠がないの」
「嘘よ、昨日帰りに私見たよ」
「嘘だぁ」
「どうしたの?そろそろ着替えないと間に合わないんじゃない?」店主の女性が様子を見に来た。
「店長、あのお客さんの忘れ物の籠って、片付けました?」
「新しい籠を買ったの。もってくるわ」
「なかの、本は?」
「本?そんなのなかったわよ」
「昨日の帰りには私にたしかに見ました」背の高い従業員が主張する。
「いいえ、何も入っていませんでした。間違いないわ。それがどうかしたの?もう時間よ、開店準備を急いでね」店主がまた戻っていく。
唐突に種田が尋ねた。「昨日のゴミは、どうやって捨てているのでしょうか?一般の生活ゴミとして出しているのなら、集配日までどこかに保管しているはずでは?」
がっしりとした従業員に明るさが戻る。「そうです、あの、燃えるゴミは明日です。さすがですね、刑事さん?刑事さんですよね、それって推理ってヤツですか?」興奮と接客で制限された口調が解き放たれたらしい。
「ゴミはどちらに?」種田の無表情に彼女の高まった感情が一気に平熱に下がる。
「裏の倉庫です」首が引っ込み指先が絡んでいた、体格に反して内面はナイーブなのだろうと熊田は思う。
「倉庫の鍵を」種田は手を開き鍵を要求する。「店長さんに了解をもらってください。あなたたちに聞くことはもうありませんので」
熊田がフォローする。「あの、開店準備を始めないと間に合わないのでは?」
「ヤバい。もう四十分だよ」
「嘘ぉ。遅刻してないのに。せっかく早めに着いたと思ったのに」
「すいません」熊田が謝った。
「いえ」