コンテナガレージ

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店長はアイス  過剰反応9-5

 二人の間で交わされる言葉遣いが咄嗟に口に出る。思った事を口にするのは一種の能力、才能だろう。目の前の人物が見えていないのだ、視界に割り当てられるセンサーはごく僅かとはいっても、彼女たちは指先や繊細で細かな作業に没頭はしていない。これが電車やバスで話されるくだらない話の仕組みか。

 熊田たちは手渡された鍵を持って店の裏手に回る。換気口の周囲は黒い油が外壁に張りつく。倉庫には見えない。教えられた場所にはログハウス風の物置が無造作に置かれていた。これを倉庫と呼んでいるのか。熊田は南京錠に鍵を差し込んで扉を外側に開いた。物は少ない。棚にはコックコートや店の制服が積まれていた。夏場の保管は向いていない、むせ返るような熱が飛び出す。

 入った右手に真四角、グレーのゴミ箱。熊田は躊躇なく蓋を持ち上げる。生ゴミが入っているわけではないので、無臭に近いだろう。それでも飲食店のゴミ箱と聞くと身を引く気持ちはわからないでもない。しかし、数々の凄惨な現場を目の当たりにした刑事が驚くような腐敗した死体に勝る匂いはこの世には存在し得ない。シュレッダーで裁断された書類の紙くずの山。本も裁断されてしまったのか、熊田の脳裏に最悪のシナリオが浮かんでも手探りの右手は文庫本らしき物体の感触を掴んでいた。

「これか?」引き出した熊田が、種田に確認を取る。種田もなんのためらいもなくその本を素手で掴んだ。彼女と同世代の女性ならば手を引っ込めることだろう。いいや、年齢は無関係。特殊な種田の性格が彼女の行動を可能とするのだ。屈んだ腰を正す。中腰の体勢は腰に過度な負担をもたらす。

「タイトルと印字された逆さまの文字が共通しています。店の従業員が捨てたと考えるべきですか?」種田がきいた。

「うん?」聞こえてはいたが、予想に反し踏み込んだ質問であったので熊田は考える時間をかせぐ。「わざとこの店の倉庫の鍵を開けて本を捨てる意味合いは、二人の死を知っている者の仕業かもしれない。あるいは、……ただ捨てた記憶がないのかも」

「従業員が、ということですか?」

「そう。あと店主の発言を採用すれば、間違えて古くなった忘れ物入れと一緒に捨ててしまったか」