コンテナガレージ

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店長はアイス  過剰反応10-1

 喫茶店の営業時間を過ぎて、約三十分。店内の掃除、後片付けはほぼ完了に近く、カウンターに突っ伏したお客が日井田美弥都の帰宅を妨げる。状況は最悪、彼、いいや気を使う必要はない、中年の男は体外にアルコールを振りまくと、コーヒーを注文するや否や眠りに落ちてしまった。警察に連絡をすれば、そこから自宅に呼び出しがかかる。店長は警察をあまり良く思っていない。この店には刑事が出入りしている、という噂が広まったためだ。出入りは事実であるが、刑事の訪問は月に一回程度、事件が絡むと週に一度は来店する。私に用があるらしい。私は謎解きのために、店で生々しい殺害現場の詳細を、刑事に語らせたこともある。店への好影響とは、店長は思えないだろう。そういうわけで、私が勤める店には警察が出入り、それに店長が嫌悪を抱く。そのような構図で、現在は閉店時間の過ぎた店内に帰らない、帰ろうとしない、休憩所代わりに使うお客の対処を決めかねていた、美弥都である。

 美弥都はモップで集めた床のゴミを掃除機で吸い取る。掃除機の音にもお客はびくともしない。エプロンを外すと美弥都は帰り支度に取り掛かる。そうは言っても、グレーのパーカーを羽織って、おしまい。肩に革のショルダーバッグを掛ける。そのなかにエプロンを入れて終了。

「わたし、帰りますよ」

「もう一度、おこしてみて」

「はい」美弥都はカウンターを回り男の横に立つ。休憩時間に買っておいた缶コーヒー男の頬に押し付ける。すると数秒後に、男は呻き、がばっと体を起こしたのだ。周囲を見渡し、あたりを状況の把握に全神経が注がれる。目をこする。腕時計を見た。また、体をひねる。私と目が合う。店長にも気が付いたようだ。天井を仰いで、記憶、ここまでの経路をたどっているらしい。気前良く私はお客の反応を待つ。

「……あのう、ここどこでしょうか?」

「喫茶店です」美弥都は言う。

「私、どうしてここに座っているのか、思い出せないのですが、誰かと一緒だったのですか?」

「いいえ、お一人でした」