コンテナガレージ

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店長はアイス  過剰反応10-2

「そうですか。あの、お会計を」

「店長」美弥都は店長にやっと帰れると、呼び名に込めた。右手を差し出す。「そちらがレジです」

「覚えていないのですが、私、何か迷惑をかけたでしょうか?」恐る恐るお客は途切れた記憶を補おうとする。へりくだった物言いからも普段はおとなしく、穏健で謙虚な人間と推察できる。

 店長は何事もなかったように芝居を打つ。「いいえ、まったくコーヒーを頼まれてすぐに眠られて、まあ多少いびきは掻いていましたが、もう閉店間際ですからお客もおりません」

「そうでしたか、あの大変ご迷惑をおかけしました」男は深々と礼をする、勢いあまってレジ台に頭をぶつけた。照れくさそうに店長の心配の声を制してお客はドアベルにまぎれて帰った。

「美弥都ちゃんも帰りな。悪かったね、いつもより遅くなって、電車に遅れるよ」

 美弥都はお客のカップとソーサー、スプーンを洗う。完璧に同じ毎日を彼女は疑う。同じものが人が同じように動き、私にもたらすのはほぼ奇跡に匹敵する非常事態である。決められた帰り時間は乱れるのが定説なのだ、美弥都はそう考える。

「これを洗ってから帰ります」

「きっちりしてるね、いい奥さんになれそうなのに」

「何か言いました?」

「なんでもありません。……送っていこうか?」

「電車は動いています。それに歩いてでも帰れます」

「聞くだけ無駄だったようだね」

 美弥都はさっと表情を閉じ込めてドアに手をかけた。「お疲れ様です」

「お気をつけて」

 白夜みたいな冬とは大違いの空の明るさ。体内のリズムは明るさによって操作、いや乱されている。朝早くに起されても夜が短くなれば稼働時間に対する休息は減ってしまうではないかと駅を目指して歩きながら考えた。短い橋を渡る。川幅は広く、しかし水量は少なめ。狭い歩道を進むと左手は緩やかな傾斜が続く。ひっそり静まり返った時間帯。二股の間にはコンビ二の煌々とした灯り。お客の数は数えるほど、もっとも店の中には人がしゃがんで隠れているかも。小道の名残は車道と歩道の近さで知れる。迫った住宅が数件、道路の両側に。コンビ二の斜向かいに赤い提灯が店先にぶら下がる。小窓に庇、窓の片一方にすだれがかかっていた。匂いが漂うはずが、車と裏手の海風と潮に押されて食欲をそそる鶏肉の焼ける匂いは完全に遮断。窓際で串を動かすのはただのパフォーマンスと化していた。