コンテナガレージ

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店長はアイス  死体は痛い?1-5

「なにしてんだろう、わたし」呟きが館内放送にかき消される。答える相手が必要なのか?ううん、いらないと思う。だったらどうして、涙が出ているんだろう。さっぱり理解できないよね。あなたって弱いの、それとも水を飲みすぎたの?涙って流れ出たら、それで満足するの、ストレスが軽減されるってほんとう?じゃあ所構わず泣けって言うのかしら。

「いっつも自分が正しいと思っている」いけない?誰が世界を観察するの、あなたでしょうが、私じゃないのよ。見方は人それぞれ、違って当然よ。共同生活?バカらしい、傷の舐め合いじゃないの。おおっぴらに人恋しさを認めもらって満足でしょう。楽しさは違うの、良さは押し付ける姿勢に反するわ。真にそれを体感する、またはどっぷりと浸るのなら宣伝の暇さえないように思う。取り上げられたいのはつまりは利益のため、循環のため、自分のテリトリーを広めたい。そうはっきりと言えばいいのに。なぜ隠そうとするのか。搾取なんだから、騙しているんだから。一人だけ、清純面しても、内側の染みが表にはみ出しているのよ。人を助けたい、それも自分がそれで助かるのだから、言い訳にはもってこいだ。何を言っていたんだ?あっああ、そうそう、店長を目撃したって話か。店長に相手がいると、あなたの気持ちは変わるのかしら?

「変わらないけど、たぶん伝わらない……あの人は奥さんだもん。敵わない」

 自分を棚に上げていない?あなたはいつのあなたなの?昨日のあなたはもういないのよ。

「私はずっと私よ」記憶のおかげ。思い込みの記憶が昨日を更新して今日を見せている。何も知らなかったら、仕事や生活に支障がでるから、生活に必要な情報を体に記憶させておくの。そうやって昨日をなぞって明日を迎える。

「店長に会う前はこんなこと考えていなかった」会う前の記憶を思い出してみれば?

「いや」そう、現実は望みしか与えない。どっちつかずの今の立場も、隠れたあなたも、出会う前の記憶もすべてあなたが無意識に、いいえ、意図的に解釈し、導いた結果であるのよ。

「……。けど、奥さんと別れないよ、店長は……」後は自分で考えることね。何事も思い込み。疲れたからもう私、眠る。ご飯は食べてね、おなかが空いたらでいいから。惑わされないで、時間に。体に訊いて。

 揺さぶられた頭部を定位置に引き起こす。なんだったんだろう、今のは。誰かと話していた。でも……。彼女は周囲を見渡す。半径二メートル以内に人はいなかった。私、おかしくなったんだろうか。でも、声はなんだか懐かしかったように思う。誰だろう。

 アドバイスを私に送っていたように聞こえた。口は少し悪かったけど、私の事を思ってあえて伝えたのだろう。愛情は読み取れる。お腹が鳴った、誰かに聞かれたかも。さっと見てもやっぱり私に関心を寄せている人はいない。何かを食べよう。一人で食べられるところがあったかな。ちがう、食べたいものを食べるのだ。視線とか常識とか年代とか、どうだっていい。だって私は私が見てるんだから。もっと大切にしよう。蔑ろにしてきた私が泣いているかもしれないし、それに今日は休日で私は休む権利を与えられてそしてお腹がどうしようもなく空いているんだもの。

 音が響かない床なのに、かかとのコツコツとした音が私には聞こえた。気のせい?だぶん、そうでしょうね。でも、私には聞こえたの。それで十分。満足は私が決めるんだから。

 一階に飲食店があったのを思い出す。エスカレーターに飛び乗り、一階へ降りるまでにメニューを決定した。降り口のすぐ近くのコーヒー豆を扱う店から漂った香りで本を忘れた事を思い出した。引き返すな、本はまた買えばいい。今は柔軟な私に従うべきだ。

 吹き抜けの天井に向けて、私の前を歩く子供の風船が中空に舞った。