コンテナガレージ

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店長はアイス  死体は痛い?2-5

「狸寝入りか?」

「死んだふりです」

 チャイムが響いた。廊下がにわかに騒がしくなる。ドアが開く、数人の教師が入室。こそこそと何かを入り口付近、ドアを閉めた直後に、教師たちが囁きあう。本来ならならば来客の見えない場所で行う行動だ。ソファに近いドアが開いた。背の高いすらりとした長身の女性を目で追う。その女性が職員室で警察の来訪を知っていた教師に呼ばれ、熊田の対面に腰を下ろした。軽い自己紹介と挨拶は女性が座る前に済ませた。

「事件のことでしょうか?」女性はおっとりとした口調で積極的に事態の把握に努める、外面的な印象に性格は不適。

「生徒さん、最初に現場を発見した生徒さんですが、直接お話を聞きたいのです」熊田はジェントルな声で聴取をはじめた。

「実は、今日はお休みしていまして、なんでも昨日から体調を崩している様子で今日も朝に親御さんからお電話をいただいたんです」

「そうですか。風邪ですか?」

「ええ、熱があるようです」

「話を聞くのは酷ですね」

「できれば、もう少し時間を置いて聞いてもらえると助かります」

「他の生徒さんに、話を聞くことは可能ですか?」

「どうでしょうか。事件は学校でも話題になっています。ほとんどのクラスの半数は現場を目の当たりにしましたから、当然興味を持つな、と言うほうが無理な押し付けです。お話を聞かれることを止める権利は私にないでしょうし、必要なら刑事さんの権限で私の許可なしに話が聞ける。しかし、刑事さんは私を通してくれました。生徒に対する配慮を考えてのことでしょうか?」

「それもありますが、一人一人ではなく一度に大勢が集まる教室で質問をしたいのです」

「それはまたどうしてです?あの子達は好き勝手に話しますよ」

「見たものは時間と共に情報を勝手に創作します。都合よく補う、といったところでしょうか。一人一人の聴取には時間もかかります。また、整合性が取れないとも考えています。ですから、こちらから具体的な出来事を思い出させるのではなくて、はいかいいえで問いかける簡単な質問で結構ですので許可をいただけませんか?」

「学校の先生みたいですね、刑事さん」教師の口元が僅かに笑う。

「職業柄、人と話す機会も多いのでどうしても説明口調が抜けなくて」熊田は愛想笑いで返す。

「けれど、どうしようかしら。もう次の授業が始まります」教師は伏せた瞼を大きく開く。

「ここで失礼します。お手数掛けました」熊田は立ち上がる。

「あまりお役に立てなくて、ではこれで失礼いたします」恭しくお辞儀、教師は熊田たちを残し教室を出た。二人は帰り際、教師の担当クラスを覗く。開け放たれたドアから見えてしまった風を熊田は装う。生徒の数人がこちらの様子を覗いていた。

 それから校舎を出る。玄関前の駐車場で種田が言った。

「生徒の一人は休みといっていましたね」

「ああ」

「空席がもうひとつ在りました」

「うん。おそらくは不登校だろう」

「机にカバンが掛けられていました」

「保健室かもしれん。気になるのか」

「はい」

「正直だな。しかし、言うなら学校を出る前に言ってくれないと」

「記憶を思い出していたら今気づいたのです。すいません」種田は景色、情景を鮮明に想起できるのだ。情報量が多いために再現までに時間と集中を要する。

「保健室は?」

「一階、玄関を左、突き当りです」二人は事務職員に忘れ物をしたと断りを入れて再度構内に足を踏み入れた。