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店長はアイス  死体は痛い?3-6

「まあ、仕事といってもさあ、時間を共有していくうちにそれとなくあえてこっちから聞かなくってもわかっちゃうことって、あるんじゃないんですか」林道は相田、鈴木へ順番に視線を送る。「もうたぶん、ここに呼ばれるときに調べていたんでしょう?私と店長との関係」

「ええ、股代さんが話してくれました」相田が堂々答える。鈴木は関心する、まだ彼には肝の据わりが足りない。相田ぐらいのキャリアを積めば、そう割り切って仕事と称し、自分を離れた刑事から向き合えるのか。

「あの人ってさ、ずるいでしょう。いつも逃げ腰。店だってそう、他のみんなが店長の仕事を分担してかろうじて店長の地位を保てているだけ。チェーン店といってもうちは独立的な経営を任されているから、それぞれの店舗に日常の業務は任せている。だからこそ、やる気になる人もいて、でも店長は一人で何かを作り上げる人でないと思うの。命令で動くタイプなのよ」

 コーヒーが運ばれて、店員が去っていく。林道はストローを黒い液体に指し喉を潤す。艶のある動作は、どこか虫たちをおびき寄せて食べてしまう食虫植物にみえた。一々彼女の動作はわざとらしさも伺える。こういう女性が好きだ、という男は数多く、男の中でも大多数を占めるだろう。たしかに表面的な魅力は持ち合わせている。けれども、その先の道路が途中で工事をやめてしまっているのだ。鈴木はもどらなくてならない道をあえて進む勇気はないし、それを勇気とは言わないと思うのだ。女性に対する見方にもいくらかの判断が委ねられてもいいと鈴木は常々感じている。綺麗という形容詞でさえも人それぞれに意味合いは異なり、同一であるはずがない。ある程度の重なりは認める。しかし、完全なる一致を求めようとする人物は自分の意見が常識、一般的な指標と決めてつけるから厄介なのだ。鈴木が苦手なタイプ。その女性版はコーヒーを啜る林道といえなくもない。過度な自信が振りまかれている。

「股代さんが紀藤さんとも付き合っていた事も知っていました?」

「誰でも知っているわ、店では有名な話題ですよ。だってあからさまに店長と話す時だけあのひと、かるく飛び跳ねたりしてました」林道は椅子の背にも垂れた。緊張がほぐれたのか、あるいは本来の姿をあえて見せているだけか、鈴木に判断が難しい。

「刑事さんって、難しい顔をするのが仕事なんですか?」林道が鈴木に尋ねた。慌てて鈴木は眉間によった眉を離す。

「案外普通なんだ」林道は呟いた。どうやら本音らしい。

「睨んだのではなくって、考え事をしていたんです。誤解しないで下さいね」鈴木が弁明。

「あなたは紀藤さんに敵対心を持っていたと自覚しているみたいですね」相田は鈴木の空けた林道の隙間に片足それも抜けないよう返しの付いた、質問をぶつける。

「そうね」林道の口調がフランクに変わる。「けど、誰だって他の人と付き合って欲しくない、そう思うのが当たり前だわ。だって取られたくはないもの。独り占めしたいじゃない。店ではあの人みたいにあからさまな振る舞いなんて意外に思うかもしれないけど、私はそういうの無理なの」

「あなた以外に、紀藤さんを恨んでいそうな人は思いあたりませんか?」

「店員が店長以外女性だったことは、つまりはそういうことですよ。私はもう別れましたけどね」林道は小首を傾げて言った。

「ええっと」相田はわざとらしく困ったように間を取る。「全員と、その……お付き合いがあると?」

「当然です」

「当然って」鈴木が漏らした。彼女、林道が鈴木に言う。