コンテナガレージ

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店長はアイス  死体は痛い?4-9

「あのう、煙草一本もらえますかぁ?」

「正気か?」熊田は言う。

「一本ぐらいいいじゃないですかぁ」薄っぺらな卑下。

「一本ぐらいを二十人に渡していたら、箱は空になる」

「なんだよ、けち臭い。ジジイ」

「未成年じゃないよな」

「あーああ、うるせえな。もうお前との話は終わったの、じゃあね、バイバイ。おじいちゃん」

「こういうのを見たことがあるか」熊田はおもむろに警察手帳を取り出した。二人の若者は突然のことに、開いた口がふさがらない。元々軽く空いていたのだ、閉まらないといったほうが正しいか。熊田は言う。「もう一度訊くが、未成年じゃないよな」

「違いますよう。僕たちだって大学生ですよ」両手を胸の前で振る。ねずみのキャラクターみたいな動作。

「そっちの君は?」

「……ええっと、その、あの」相槌を打って話を聞いていた男は答えに窮する。咄嗟の判断がままならない。

「こいつも同じ大学です」

「学生証は?」

「今日はちょっと、家に忘れてきて」

「財布を見せてくれないか?」

「そんな、警察に魅せるようなものは何も入っていませんよ」

「入っていないなら、見せられるだろう」

「訴えるぞ!さ、財布を見るのだって、礼状とか必要なんだろう!」息巻いて、虚勢を張る。動物的といえば動物的か。

「ただの職務質問に礼状なんかないさ」熊田は片手を天井に向ける。「不審に思った声をかけて調べられる。それが警察の特権だ」

「……見せられない」

「どうして?未成年だからか?」

「……はい」

「そっちは未成年か?」

「……はい」

「じゃあ、煙草とライターを出してくれ」

「これだけ?」処遇に不満らしい。何でも思ったことを口にできるとはある種の才能だ。

「不満か?自宅に電話をかけて親を呼び出して連れ帰ってもらう方法もある」

「いや、べつに、なんでもないです、へへへ」

「何を立っているんだ。もうここに用はないだろう」

「行ってもいいんですか?」

「ああ」

「失礼しましたぁ」

 喫煙室、中央のテーブルと灰皿と吸気を兼ね備えた装置の煙草とライターが二つ。不利益か。彼らの煙草は私にとっては不利益、その私にとっての不利益は禁煙。私と貶めると、彼らが救われる。助けた亀をいじめたいのなら、まずは浦島太郎を懲らしめるべきなのだ。そうすれば、浜に近付かないし浦島太郎が亀と会うこともないのだ。会うこともないか……。そう、そうだ、会うこともないのだ。おぼろげだった視界が明度が戻った。

 熊田は吸いかけの煙草を躊躇うことなく消す。ドアにかけた手、外に一歩足を、そこから振り返る。

 注いだ太陽の角度が抜群でそれはもう木陰で人が佇んでいる雰囲気だった。垂直に立ったライターと煙草のケースは海辺の昔話を連想させた。