コンテナガレージ

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店長はアイス  死体は痛い?5-6

「申し訳ありませんが、急な仕事で会社を出なくてはならなくて、お話はもう済みましたよね?」ジャケット、バッグをPCとファイルを詰め込み、小島が言う。

「トラブルですか?」相田がきく。

「新商品の味に若干、バラつきが見られるので、これから本社に向かいます」

「お送りしましょうか?」

「えっつ、でも、そんなパトカーには乗れませんよ」

「普通の乗用車です。私の自家用車ですから、安心してください。どこです、本社は?」

 斜め上を見て小島京子は考えた。迅速な駆け付けと警察と共に過ごす窮屈な移動か、それともタクシーを捕まえる幹線道路までの時間のロスと優雅な一人旅か。前者を選ぶと、鈴木は確信。効率を重視する仕事は日常の行動をも侵食するはずだと、考えているからだ。

「わかりました。同乗させて下さい。ただし、ご質問は上の空、仕事の片手間で聞いてしまうことを許してくれるのなら、ですが?」探る言い方で小島は返答した。

「かまいませんよ。警察の聴取に真摯に応える市民は少数派ですから」

 ブレイクファスト本社はS駅前通沿いを南下、駅から三ブロック目の角に建つ瀟洒なビルがそれである。しかし、本社に行き着くには一方通行が張りめぐる、駅前を迷路のように道順を辿る無駄な労力を要した。普段は頼りないカーナビの道案内も極端な開発が行われない駅前通りを完璧に全うしそうだ。相田の助手席でカーナビの画面に電源が入ったのはもしかすると初めてかもしれない。鈴木はドライブに浸る自分を切り離し、仕事を思い出す。

「あの、大嶋さんはずっとブレイクファストにいたんですか?」

「……うーんと、どうでしょうか。……少なくとも私の入社前にはすでに会社で働いていました。……それがなにか?」膝の上にPC、両手に資料。小島の応答は遠距離通信のように会話が途切れる。

「長い勤務期間ならば、それなりにプライベートな事情にもあえてきかなくても耳にするような場面があったのではと思ったのです」

「そうですね。……、最近では、娘さんの……教育方針について、奥さんと意見が食い違っていたような、そんなことは言っていたと思います」

「どうしてそんな話題になったんです?」

「夕方のニュースでわが社の商品が紹介されるはずが、十代の少女が起した殺人事件に差し替えられて、それでですよ」彼女は小さなペットボトルのお茶を飲んだ。鈴木にはまったく足りない量である。

「他に何か、悩み事とか、……そう、趣味とはか、知りませんか?」小島は車窓を眺める、鈴木の問いや景色はおそらくは第一に優先されていない。しかし、聞いていないようで種田のようにすべて記憶する人間もなかには存在するので安易な解釈は失礼に当たる。

「……湯のみを買っていましたね。デスクにもいくつか未使用のカップが残っていると思います」