「お前が聞いていたんだから、そっちが普通、覚えているもんだろう。傍観者なんだから」
「こういうときに種田がいればなあ」
「お前、大嶋八郎の経歴を聞いていた」相田が思い出したように呟く。
「ああ、はい。プライベートな事を知らないのはおかしいかなって」
「それと湯のみ。カップだ。カップだよ。同じものを買うのはどういうときだと思う?」
「クイズですか?そういうのはやりませんよ、さっさといってくださいよ。じらすのって権威を示したいみたいですよ」週刊誌の小さな記事で読んだ心理学のテストである。カラオケでマイクを離さないタイプは権威の誇示にあたる。
「意見を聞いてんだよこっちは!」
「ちょっと前を見て運転してください。もう、命がいくつあっても足りない」
「なんかいったか?」
「いいえ、何でも。……えっと何を話しでしたっけ」
「大嶋八郎のデスクの引き出しに入った湯飲みとカップ。同じものを買い揃える心理」
「そうでした。ええ、それで相田さんの見解は?」
咳払いをして相田は言う。「コレクション。家には持ち帰れない、家庭の権力は奥さんが握っていたのなら辻褄があう。または、買うこと自体が目的だったのかもな」
「買い物依存症ってことですか?」
「それなら他のものを買っても精神は満たされる。大嶋八郎は、店に通うことに意味を見出していたんじゃないかと思ったんだ」
「それってつまり、店員に好意を抱いていたってことですか?」
「はっきりとはいえないが、可能性は十二分にある。奥さんに虐げられ、娘の教育も意見が通らない。フラストレーションは解消するか、別の高揚感で相殺するしかない。ただ、仕事も話を聞くと暇な部署でもないらしい。ストレスの吐き出しはおのずと限られてくる。そこに未使用の湯飲みコレクションだ」
「小島京子が隠そうとする意味が見出せませんよ」鈴木は反論した。
「湯飲みが紀藤香澄の働いていた店で買われていたとしたら?」
「接点ができますね。被害者二人に」
「そういうことだ」満足そうな相田はタバコをくわえる。器用に片手で火をつけた。