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店長はアイス 幸福の克服2-2

「違うといえば違いますし、合っていると言えば合っている」
「からかってます?」ぐっと表情が引き締まり、頬が軽く痙攣。表情に出やすいタイプだ、熊田にとっては好都合。表情が真実を語ってくれる。質問をすれば答えの真意が読み取れる。
「真面目な質問ですよ。こちらの店で購入されたようなのですが、見覚えは?」熊田はもう一枚顔写真を見せた。一瞬股代の表情が崩れる。ほんの些細な兆候、動き出しの反動。見逃せばそれでお仕舞い。
「うんと、どうですかね。見たことがあるような、ないような」表情は思い出す仕草で埋められた。たしかに、垣間見せた笑いだった。
「紀藤さんと同じような格好で発見されました。二人の共通点はこの店です」熊田がテーブルをわざと叩く。
「待って下さい。僕が犯人だってそう言いたいんですか。冗談はよしてくださいよ、それに私はたいへん忙しい。用が済んだらお帰りください。ドアから勝手に出て行って構いませんから」
 熊田はテーブルに落ちた股代の顔を凝視する。
「こちらでは会員カードを発行していますか?顧客情報から大嶋八郎という名前におそらくは辿り着く」
「店長っ」店舗から店員が顔を出して呼んだ。股代は熊田に視線を送る。
「ちょっと失礼します」
 ドアが閉まり、鈴木が口を開く。「隠してましたね、あの顔は。何か知ってますよ、ねっ、相田さん」
「大声でしゃべるなって」相田が嗜める。おそらくドアを開けるまで、外に声は聞こえないだろうと熊田の観測。それよりも心配はドアのない地続きの隣室だ。そちらから気配は感じられない。しかし、確認はしていない。熊田は、そっと歩き出して隣室を覗いた。すると、店員の林道が回収したリペア商品を磨いていた。会話を聞く気がなくても聞こえていたに違いはないはず、だが熊田の視線が彼女と交わるまでは仕事に没頭を、アピールして驚きを混ぜた顔で出迎えた。声もワントーン高い。
「刑事さん。また、捜査ですか。精が出ますね」
「仕事ですから」熊田はそれだけを言って手前の部屋に引き返す。
 鈴木が小声で言う。「誰かいました?」熊田は無言で首を縦に振った。
「いやあ、申し訳ありません」恭しく股代が入ってくる。席に座らずに、広げた資料をまとめる。「これから仕事で、外に出ることになりました。まだ、お聞きしたいことがあるなら、おっしゃって下さい」
「紀藤香澄さんは自殺であると断定されました。大嶋八郎さんも同様に、同じ手法で命を絶ったと思われます」
「だから、それが僕に何か?まだ、疑っているんですか?」片目で熊田を睨む。
「あなたは犯人ではない」