コンテナガレージ

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店長はアイス 幸福の克服3-2

「私も同行します」種田が言う。

「……、店であまり過激な言動はよしてくれよ。事件は解決したんだから」

「心得ています」

 鈴木を置いて三名はO市とS市の境目、海道を逸れた海沿いの喫茶店に足を向けた。熊田の車が駐車場に納まる。黒ずんだブロック塀に三毛猫が隣家の日陰に収まる位置で細めた目でまどろんでいた。ドアの開け閉めにも動じない。慣れているのだろう。

 店内、カウンターの一番奥に三人は腰を下ろす。アイスコーヒーを注文。恰幅のいい店主の姿は見えなかった。休憩だろうか、美弥都に話を聞くには絶好の機会である。熊田は、隣の種田の様子を伺いつつ、車内では吸わない共有の時間分を貸しと決め付け煙草に火をつけた。相田も煙草を吸う。

「日井田さんのアドバイスで事件が解決しそうです」

「そうですか」美弥都は視線をグラスに、水出しのアイスコーヒーを注ぎいれる。均等に八割まで、残りは氷で嵩を増す。コースターを先に、グラスが三人の前、カウンター越しに置かれる。接近の美弥都の顔。「私、新聞も取っていませんしテレビもあまり見ませんので」

「忘れてました」グラスを傾ける熊田。「しかし、我々は林道氏に行き着かなかった。決め手はなんだったのでしょう?」

 しゃがむ美弥都が熊田の問いかけを無視するように視界から消えて、淡々と彼女は作業をこなす。カップに専用サーバーのレバーをひねり、お湯にスティック状の温度計を差し込み、温度を計測。適度な温度があるのだろう、熊田は滑らかな手技に質問がスルーされたことを忘れてしまうぐらいに見惚れる。煙草の煙が目に染みる。美弥都は時間差で質問されたことは風が吹き去ってしまう程度の感覚としか捉えていないらしい。遅れて、反応を示す。

「何かいいました?」

「林道氏を犯人と特定した決め手はなんだったのか」

「ああ、ええ、そうですね」美弥都は再度、湯温を計測。まだ、求める温度ではないらしい。「むしろなぜ彼女を疑わなかったのが、それが不思議。だって、考えてもみてください。彼女は、林道さんでしたっけ、店長さんとお付き合いをしていた一人でしょう、もっとも近似でしかも現在の恋人の3-2ひとつ前に付き合っていたのでしたね、未練が残ればいつもあわせる顔に敵意を抱くのはとても自然な現象です。それがたとえ、愛情とは違う形の感情であっても、です。おそらくはすでに彼女から愛という情は失われていた。怒りは過去が引き起こした現在とのアンバランスを嫌っての生体反応。枕が替わると寝られないのと一緒。寝る場所は部屋でいつものベッドでシーツで枕で掛け布団で、大体の同じ時間で、取り巻く空間の圧迫も匂いも温度も何もかも少しでもずれが生じようものなら、気になってしょうがない。それゆえ、育ててきた、永遠を勝手に決め込んだ愛情が他人に振りまかれれば、受け入れるのは困難。考え方そのものを変えないと四六時中違和感に襲われる」

「股代氏の夫婦生活は表向きに限り、良好な関係だったようです。ただ、彼女を犯人に導いた論理には多少無理を感じます」今日の種田はおとなしめ。いつもなら日井田美弥都に食ってかかるのに、大人しくコーヒーをストローで吸引。背筋が伸びているため、隣の相田の頭が前にせり出して二人の横顔がいっぺんにみえる。相田の体型も加味して、背中の丸みが種田をはみ出している。