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店長はアイス 幸福の克服3-3

「殺された、または自らで命を絶ったにしろ、その現場は異常と言える状況。何らかの意図、連続殺人の序章、世間へのメッセージ、特定の人物を対象に警告、自己顕示、快楽の意味合いも含む。死にたいのなら高所から飛び降りれば手っ取り早く、かつ確実性が高い。刃物を突き刺すよりも行動に踏み切ってから亡くなるまでにわずかな時間が生じる。他者によって命を奪われる感覚を味わえてしまう、自分ではない、と言い訳も可能。落ちたのは自分だけど、直接手を下していないんだから、信仰する教えには背かないと考えられる。殺されたくて、そう演じたかったのです。ただ死んだのでは不満。退屈。ありきたり。もしかすると、被害者は殺害を察知していたのかもしれない」

「大嶋八郎氏に殺されるのをですか?」

「ウェディングドレスも演出のために用意したのかぁ……」相田は話には加わらず、独り言を呟き考え込んだ。

「日記を書いたのは股代さんとあなたはおっしゃったようですが、記録が残る日記の掲載者は不明、そうですよね?」美弥都が丸い瞳で訊く。
「情報班の調べでは、おっしゃるとおり、S市中心部のネットカフェが発信元と判明したのですが、ネット利用には個人を示す情報提示は行っていないために、掲載者は不明のままです」熊田が答える。
「被害者の書き残しであれば、本を彼女自身が故意に忘れていった。他人が残したのなら、計画殺人のために書き込んだ。まるで、いくつもの顔を持っているように林道さんを見ているようですけど、彼女は単一で構成されている、そう思い込んでいます。大まかにひとくくり、情意から感情、そして生体反応に無意識にまで落とし込む。そうやって、殺害を意図しない精神を作り上げた」
「どうしてそこまではっきりと言い切れるのかしら」種田が口を出す。異性を射止めるための上目遣いは、強烈に白眼を強調する敵意。
「知ってることだけを述べる、それは誰もが納得する事実なのかしら?ある無知な人にとっての事実は道端の花、どこに咲いても関心を示さない。あなたにとっての事実、真実はあなたをそっくりそのままあなたの人生を歩んでくれる他人がいて初めて成立するのだとすれば、誰もあなたの発言に理解は示さないわ」
「極論。私は一般的な理解度の範囲内での解釈を求めてる。完璧な同化は求めていない」
「補って余りある情報を一度に脳内に取り込むとつまりを起す。だから、過去の事象を圧縮した情報に置き換え、遭遇するたびに取り出す。飛躍は、格納された源の表層裏に待機させつつ、次の展開を予測するの。おもしろいことも、そう、感覚的な反射とは違う、膨大なパターンをキャンセル直前までカウンター前に待たせておき、常に情報の列を観察してる。そこから、優先させて列の中から選ぶ。林道さんを犯人に特定、断定したのだって、決定的な証拠やおかしな言動を見聞きしていたわけでもないのよ」
「……あなたは刑事ではない」
「そうね。私もこんな無駄なことやめてしまいたい。けれど、刑事さんたちが持ち込んでくるのを私には止められない、それはあなたの仕事ではないの?」
「誰も助けてくれとは、いっていません」
「私も事件の概要を教えてなんて、言ってないわ」二人の視線が交錯。
「こんにちわぁ」ドアを開けたのは鈴木である。「いやぁ、やっと、十分遅れですか、合流できましたよ」