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店長はアイス 幸福の克服3-6

 鈴木はまだ吸い始めの煙草を咥えて、相田は目を閉じてどちらも時計の針を止めていた。
「生活には困っていません。それに、過去を調べるのは好きではない。むしろ、おもしろさは感じていない」
「そうです、この人に勤まるわけがない」
「あなたならすぐにでも役職がつきますよ、あなたが望むように調べられる」
「熊田さん!」種田が立ち上がる。「この人は刑事には不向きです」
「何をムキになっている?」熊田は種田の憤りがただの敵対心やライバル心ではないと見通す。しかし、後輩の自分を見て欲しい、というタイプでもない種田。引っかかりの正体がつかめなく曖昧で不定義。夜と朝の境目の空みたい。
「私がムキになっている。どうして、この人のことで怒らなきゃならないんです?」
「私に訊かれても困る」種田はきりりとカウンターの美弥都に向く。
「一応、他のお客さんと空間を共有してることを認識してくださいね。二階にもお客さんが居ます」天井、美弥都、熊田、鈴木を順番に見てから席に腰を下ろす種田。
 階段を降りる足音と話し声、女性だ。美弥都がレジで向かえて声がドア、外に吐き出された。カラリと引き戸に似合わない、ドアベル。美弥都はそのままレジの前に位置を変えた。
 種田が言った。「なぜ林道は殺しを決意したのでしょうか?」
「聞いていなかったのか?」
「いいえ、熊田さんの見解を聞いているのです」
「そうだな」熊田は煙を吐く。短い煙草。「大嶋八郎氏の意識を操り、紀藤香澄氏を殺害、さらに大嶋氏を林道氏が殺害した。林道氏にとって大嶋氏は、連絡通路の役割。跳ね橋がせり上がれば対岸へはたどり着けない。遠回りでもたどり着けるが、不必要な情報まで抱え込んでしまう。寄り切った被写体から一度でも目を離すと、探し当てるのは困難を極め、被写体を捉えたつもりでも、もう前のような景色は二度と見せてくれない。つまり、大島氏から紀藤氏にはたどり着けたとしても、次の展開、つながり、接地点の見出しはほぼ不可能に近い。紀藤香澄氏を手にかけた大嶋氏の口が動かないのだから、林道が口をつぐんでいれば、通過後の端はまた跳ね上がってしまう。ただ、林道氏にとって誤算は股代氏の性格を読みきれなかった。彼女よりも不安定だったのは、パートナーをしょっちゅう代える男のほうだったという結末だ。性別の性格差の区別もそろそろ間違いだと、気づくべきなんだ。男だからとか女だからとかは、所詮規則や慣わし、習慣の刷り込み」
「林道の自白が捜査の証拠。我々は何もしていません」