コンテナガレージ

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店長はアイス 幸福の克服3-7

「事件を解決に導いたのは、たしかだ。手柄が欲しいのか?」
「いえ、二件目の殺害を食い止める手段はなかったのかと思いまして」
「情報の整理、人員の少なさ、可能限り最善は尽くした、落ち度があったか?」
「まったくありません」
「らしくないな」
「……誰かのために熊田さんは死ねますか?」いつになく思いつめた種田の横顔が表出する。
「さあ、その時になってみないと。そのときが来たら、……言えないか」熊田は煙を吸う。「ただ」
「ただ?」
「身代わりならば考えなくもない。無駄死になら見送る。おまえはどうなんだ」
「私は、……イメージできませんね。すいません、自分で答えられない質問でした」
「大まかなイメージは?」
「仮に、その、身代わりによって救われ相手が一日でも私の事を想っていたなら、悪くはない取引です」
「命は惜しくはないと?」
「いつか消えてしまう、遅かれ早かれ。それが私の決断で、もたらされるのです。私は自殺しません。ですが、最後のボタンを押すのは私の手を望みます」
「同感だ」
「難しい話ですか?コソコソ話すのは二人の関係を疑いますよ」
 鈴木の問いかけに熊田、種田、美弥都、相田は応えない。熊田の耳にはライターの着火と天井と壁に作られた角に、カメラみたいにこちらを見つめるスピーカーの歌う音が届いていた。タイミングよく、恋の歌。タイミングはいつだったら良いのだ?受け取る側の態勢が肝要。片思い、悲観的な想い人への告白、未来なのに結果を予測している、過去の失敗を思い浮かべて、好まれるのは華やかさ、音楽に後押しされた想い、前向き、しかし、まだ二の足、入り口は表面の綺麗さ、埋もれた花も見て欲しい、けど、でも、勝負に出るまで結果はわからない、進め、立ち上がれ、伸ばせ、伝えろ、響け、振り向かせろ、大胆に、押し切れ。祈る神も自分次第。救いの神であるように願って、祈って、背中を押して、飛び込め。
 帰りの車内で、同じ曲が頭の中で結局署につくまでリピート。最近、本を読まなくなったと自覚する。取り入れる情報に目新しさが感じないといえばうそになるが、短時間で予測がついてしまい、期待感は前半の折り返しで薄れ、だから、手に取らなくなったのだ。培った意見を守りたいのか。いいや、たんにショートカットで賄える経路が出来上がってしまった。長く生きれば、自然に勝機の道を選びがちだ。