コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

店長はアイス エピローグ1-1

 山の入り口、登山道とは言いがたいが、開けた切り開かれた道は人の出入りが過去にあった事を指し示す。部長は車から歩道に上部から日差しを遮る広がりの葉を仰いだ。住宅街と山との境目、低層住宅がたっぷりとした間隔で隣家の距離を適切に保つ景色。不釣合いな黒塗りのSUVが一台、歩道脇に停車。部長は煙草を吸いつつ、運転席に近づき、サイドウィンドを叩いた。
「助けたつもりか?」長髪の男、色白の頬、横顔が言う。
「捕まえられなかったみたいですね」部長は煙を吐いて、突然の質問にさも用意していたかのように滑り出す低い声。今日初めてしゃべったので、部長は声の質を客観できた。
「知りすぎている」
「何を?」
 男が肘を窓枠にかける、顔をそれに乗せる形で車に背中をのせる部長を睨む。「……、ふんっ、しゃべらそうとしても無駄だ。挑発には乗らない」
「そうか、残念です……。今日は定期連絡だけですか?」
「警察に圧力をかけた。二つの捜査は今日、明日をもって打ち切られる算段と決まった」
「小島京子は?」
「煙草をくれないか、一本」部長は上着のポケットを探り、片手で器用に煙草のケースを振り一本の頭を出す。男が加えた先に火をつけてやる。まじかで見ると、相当若いと知れる。鈴木か種田と同年代だろう。男の煙が部長に降りかかる。「ほとぼりが冷めたら抹消される予定だ。具体的な時期と方法は問わない」
「私に言ってます?」男の瞳が言葉を投げかける、部長は肩をすくめて応対。男は頬を歪ませる。
「仕事を断れるのはあんたぐらいだ。いつも不思議だったんだ、何で許されるのかって。秘密でも握ってるのか?だったら、こんな仕事に手を貸さないか……」
「あくまでも表向きは警察サイドの人間でいたい、そう先方には伝えてる。こちらから無理に願い出たわけではありませんよ」
「敬語をやめてくれ」男は言った。
「海外の暮らしが長いとフランクな口調が体に染み付く。友好的な関係性を築く手っ取り早いとね。以前の住まいは?」

「誰から聞いた?」
「なにがです。私は思いついた事を言ったまで。当たってました?」
「まあ、いいさ。話は伝えた」エンジンの始動で部長は車体から腰を離し、距離をとる。車が行き止まり、赤白の柵前で優雅に対向車線にはみ出し向きを変えた。「他人の煙草はまずいな」