コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

あちこち、テンテン 5-2

「パトカーが止まれば、事件でしょうし、警察の訪問で確定的です。あくまでも予想です」
「あなた以外の従業員は何人です?」熊田は種田に代わり質問を続ける。
「三人ですが」一店一店、周辺に同様の質問を投げかけるのか、店主は疑問を感じる。「あの、先にお聞きになりたいことを話していただければ、互いに有効的な時間を確保できると思うのです」
「こちらの理解はあまり受け入れられないのが通常でして、つい回りくどい聞き方になってしまう。それでは、単刀直入に聞きます、ランチタイム後、仕込みの時間に店を訪れた人物を覚えていますね?」
「ええ、常連のお客さんです。あの方がなにか?」
「その人物が書いた短編小説の一編に状況が酷似しているのです。出版済みの書籍です、当然大勢の人がその物語を知っていて犯行を似せてもおかしくはない。が、現場近くで彼が目撃されていました」
「常連さんです、近くに仕事場や住まいなどがあったのでしょう。偶然というには強引。むしろ、見かけるのは当然でしょう」
「ええ、おっしゃるとおり。ただ、その発表された小説には明記されていない状況が現場にはありました」
「といいますと?」
「小説というのは何度も手直しをするそうでして、その変更前の記述、表には出るはずのない内容が、現場の状況を再現していました」目を見張るとでも思ったのか、刑事の両目はらんらんと輝き、僕の心理のゆれをあぶりだそうとしている。店主は咄嗟に感情を引っ込めた動きを後悔した。刑事には隠し事に見つかったまたは、虚をついたとの誤解を招きかねない。もう遅いか。短時間で状況は一変するものだ、先ほどまでは安穏と平静と今日のランチを対象者に合わせ、売れる。店に入らせる料理の構想に時間を消費していたのに。映画の、ドラマのあるいは刑事が話題に上げた小説のように、非現実がつき先ほどの僕を置いてけぼりにして、厨房の片隅へ鎮座させる迫力と相手に入り込む度量にはただただ感心する以外に言葉が見つからない。見つけようとしている僕がいることもたしか。
 これほど、世間での僕は無口であり、しゃべる理由を頻繁には見つけられない。だとすると目の前の二人の刑事はそれに値する、ということか。またさらに無駄な思考。早く帰ってくれないか。これは本心、まぁ数分間の強制的な誘いを甘んじて受け入れるのが彼らの言う市民の役目。
「出版社の人間かその小説を書いた人物、後は出版前の内容物をこっそり盗み見たその方の家族、恋人、それに近いしい人物、または彼らのそして会社、仕事場に潜入し出版前の改変前の作品を見た人物かのいずれか」店主は思いつくまま言葉に換える、普段ではあまり見られない店主の性格的傾向。
「……出版物に関わったのは本人、作者と出版社の担当者と校閲の人間の三名だけだそうです」熊田は確信を得たように数年振りに道でばったり出くわした旧友に語りかけるような顔で急に親しみをことばに込めた。「しかし、あの、あなたによく似た人物を私は知ってます、しゃべり方も似ている」
「似ているのですから、それは私ではないということです。それを私に伝えて、何の意味が?感覚は共有できません」
「似ている……」口が画然、意思を持って再度、セリフをはいた。思考がキャンセルされている。
「お聞きしたいということは、これで終わりでしょうか。ご覧の通り、仕事をしています。あなたがたと同様に」
「もうひとつだけ」立場を思い出す熊田。「ランチの時間外にこの店を開けたのは話に出た常連客一人だったでしょうか?」