コンテナガレージ

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あちこち、テンテン 6-5

「床を、床を綺麗にしてもらうよ。落書きは犯罪だっ」声が裏返る宅間。
「仲の良いお友達との殴り合いの喧嘩は暴行と判断されるのかしら?両者の間には信頼が認められるわ、けれどもそれは目には見えなくて一方が認めてももう一方が否定すれば、二人は喧嘩ではくくれなくなる。あなたが、私を認め、目をつぶれば、これは犯罪にはなりえない。子供の落書きを咎めたりするかしら?警察に突き出すの、壁を汚したからって?」天井の迫った駐車場に段階を踏んだ音声が高まる。「判断してよ!あなたの基準で!あなたの思想で!あなたの心持で!あなたが決めてよ、わかっているはず。忘れたふりがうまいのよ。だからこの文字を書いたの。助けて欲しいんでしょう?」
 こぼれる水の軌跡は少量から大幅に量を増してしまいには氾濫。洪水。押し流す。溜め込んだ感情、いわれのない思いがとめどなく溢れる。俯けば、顔が上がらない。嗚咽。反抗する私の声。響いた声だ。
 時を経て顔を上げた宅間の視界には少女の姿はなかった。赤の塗料はそのままで残されていた。同僚が戻る。異変に驚き、宅間に詳細を尋ねる。胸倉を掴んで、抜け殻の私を引き起こして、何度も揺する。蒼白な表情だったらしい。後で聞いたこと。病院で検査を受けてからだ。異常なんてないし、少女のことは黙っていた。いつもと違って、目がうつろなのは、これまでの私が欺いた私で世界の見え方だから、新しい世界とのギャップに戸惑っていたのさ。
 そうそう、塗料は簡単に取り除けたらしい。