コンテナガレージ

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あちこち、テンテン 7-1

 肉対肉の構図がひらめいた店主は鶏肉を解凍する。十枚のモモ肉。一枚を四枚から五枚に等分、四十人前から五十人前が作り出せる計算。十分だろう。隣町の警察が捜査をしているのが気に掛かった。管轄外での捜査は縄張りを持つ警察が嫌がる行為ではないだろうか、また不思議に管轄の警察も聞き込みにはやってこない。まだ捜査に取り掛かっていないとも考えられる。また、お客の二人の会話の内容にはかすかではあるが、目撃証言にズレが生じていた。気がついても特に先だって伝えたりはしない店主である。
 無造作にドアが開かれた。「あれっ。店長、もう来ていたんですか。私が一番だとばっかり。今日のランチ決まりました?」館山リルカが店に入るなり、わざとらしく身をのけぞった。店に入る前に、窓から私の姿は見えたはずで、ドアが開いているならば従業員の誰かが店にいるという推測も立つ。大げさなアクションは、僕への礼儀かもしれない。指摘はしないでおこうと心に留める、店主である。館山は着替えて厨房に入る、彼女の長い髪は後ろでひとつにまとめられる。
「鳥の照り焼きに決めた。つけあわせを考えてくれないか?」
「私でいいんですか?」ピンで後頭部の髪を留めた館山が高い声で聞き返した。彼女に創作の料理をお願いするのは今回が初である。
「まだ、お客さんに出すとはいっていないよ。考えて作って、味が再現できてからの話だ。ランチまでは三時間もあるし、できないこともないだろうと思ってね。あまり時間を与えても、集中力は途切れる。だったら、いっそのこと切羽詰った状況で試してみる」
「自信ないですけど、作ります私」引き締まった口元と澄んだ瞳で館山は宣言する。
「自信はいらないよ。必要なのは経験や場数ではない。想像を働かせて作って繰るべきだ。もちろん、ランチの一時間前に僕の許可が下りなければいけない」
「ありがとうございます。私、頑張ります。絶対においしいって言わせてみせます」
「……まあ、それでも、いいか。食材は好きに使って」
「はい」